キミが刀を紅くした
俺が初めて打った刀は祖父の遺言でなまくらながら幕府に献上した。だが使い手が良かったらしくそれはある人の手中で千人斬りと呼ばれた偉大な男を殺した。その刀はその後ある人の部下、瀬川村雨に渡り今は村崎の腰にある。
紅椿は村崎と交わした昔の約束なのだ。形として彼はあまり喜ばないだろうが、これは居場所を作る為の一番早い方法だ。
まあその約束を律儀に守ったせいで、俺は唯一信頼出来る友に刀を向けられてしまったのだが。
「過去に拘る俺が悪いのかね」
あんな約束は覚えてないか。
俺は村崎の刀を持って立ち上がる。向かうは勿論、彼の家だ。刀が出来上がったから届けるという名目で、言い訳をしに行こう。
と、思って鍛冶屋を出たのは良いものの。俺にぴたりとくっつく様にして歩くのは誠を背負う一番隊隊長、沖田総司であった。彼は鍛冶屋の前でずっと待っていたらしく、俺の後ろについてきた。
俺は静かに振り返る。
「お、やっと振り返ってくれた」
「何だよ。土方の次は沖田か?」
「そんな言い方よしてくださいよ大和屋の兄さん。俺は土方さんに言われて兄さんを張ってるんですから。これも仕事なんでね」
「土方は外れだと言ったぜ」
「用心に用心を、って隊士には見せておかなきゃなんねぇもんですから。だから俺が来たんでしょ」
沖田総司。彼も土方歳三と同じく紅椿に加担する人斬りである。数人以外、誰も知っちゃいない事実だが、沖田は時折それを楽しんでいる様にも見える。
しかも紅椿随一の人斬り。人を斬った後で笑うのは、奴だけだ。
「後数時間は着きますよ。まあ空気だと思って適当にどうぞ」