キミが刀を紅くした
俺と兄さんは男たちに気付かれない様に後をつけ新撰組に行くまでの間にある空き地を目指した。
広くはないが甘味屋の裏道よりはましだろう。俺は兄さんに合図をして男たちの前に出た。
「お、お前は!」
「話は聞かせてもらいましたよ。証人もこの通り、しっかりと」
瀬川の兄さんを紹介しようとした所で、男たちが刀を抜いた。血気盛んな人たちだ。まあ喧嘩のしがいはあるかも知れないが。
「沖田さん」
兄さんが情けない声を出した。
「大丈夫ですよ、瀬川の兄さん。新撰組襲撃の罪を説明する手間と主犯確保の証拠を探す手間が省けたってもんじゃないですか」
「ですが」
「それに相手が先に抜刀したんだからこれは正当な防衛行動になります。例え相手が死んでも、ね」
俺は刀を抜いた。それに倣って兄さんも静かに抜刀する。さすが世荒し。刀を持つ姿がその他の武士よりも様になってる気がする。
いや、様になっていると言うよりは――まるで身体の一部みたいに感じる。刀を持つと言う仕草に無駄がなく隙も全くないのだ。
いつか俺と仕合って欲しい。
「瀬川の兄さん。その姿、大和屋の旦那と良い勝負してますね」
「なんのことです?」
「いや――こっちの話です。ほら来ますよ、護りませんからね」
きん、と刀が交わる。主犯格の一番ひ弱そうな奴が俺の所に来たみたいだ。俺は彼を軽くあしらってから手首を柄で攻撃し、相手の刀を地面に落としてやった。
刀は地を滑り瀬川の兄さんの方へ――あれ、兄さん、一人か?
「お、お早い事で」
瀬川の兄さんは滑って来た刀を片足で止めながら、自らの刀を振り払って鞘にしまい込んだ。彼の回りには肩幅の広い十数人の男が地にひれ伏しているではないか。
なんて早業。これが常に戦場に身を置いていた人の成す事か。
「新撰組襲撃の容疑。主犯のあなたは頓所まで来ていただきます」
「沖田さん、彼らは」
「ただのごろつき、じゃないみたいですね。手配書で見た顔もいくつか揃ってるみたいだ。応援を呼んで頓所まで連れて行きますか」