キミが刀を紅くした
それで、と彼は言う。
「今から何処行くんです?」
空気になったのではないのか、と心の中では思いながら俺は沖田を眺める。悪気はないみたいだ。
俺は辺りを見渡した。街行く人の中に村崎の姿はないらしい。
「村崎の所まで行こうと思ってるんだが。京から少し離れた所の」
「あぁ、だめですよ。今は京から出てもらっちゃ困ります。俺たちの中じゃ大和屋の兄さんはまだ容疑者の一人なんですからね」
逃げたと思われちゃ後が悪いでしょう、と彼は親切に説明した。
確かにそうだが、京から出なければ村崎の所へは行けない。ほんの少しで良いのに、出られないと言うのだろうか。困ったものだ。
「行く場がなくなったのなら、良い場所をお教えしましょうか?」
「良い場所?」
沖田は懐を探って薄い桃色の封筒を取り出した。そうして、にこりと笑みながら呟く様に言う。
「あの人が直々に大和屋の旦那をお呼びですよ。今は京の花簪に忍びで来られてるんです」
「珍しいな」
「ま、俺はこの呼び出しが例の仕事か瀬川村崎さんとの事かは知りやせんけどね。はいどうぞ」
「呼んで来いと言われただけか」
「まあ、文を預かったの土方さんなんですがね、あの人も忙しいから。代わりに俺がこうして」
俺は頷いて桃色の文を受け取った。中身は言わなくても分かる。
これは紅椿の文だ。中には椿の花びらが一枚入っているに違いない。俺は確かめずにそれを懐に入れ、京旅館花簪がある方を見た。