キミが刀を紅くした
俺は瀬川の兄さんが言った通り人々の安全確保を最優先にして努めた。その間に瀬川の兄さんは、次々に屈強そうに見えるやつらをばったばったと倒していった。
刀が交わる音が俺の脳まで届いてくる。身体が疼くと言うとまるで野獣の様だが仕方あるまい。
人々をさっさと遠ざけてから、俺は瀬川の兄さんの方へ駆け寄った。だけど俺は兄さんの所へたどり着く前に止められてしまう。
「何事だ、総司」
「あ、やば」
「お前と瀬川殿が消えたと新撰組は大慌てだったと言うのに。今度は新撰組襲撃事件と言うじゃないか。何だって言うんだいったい」
つかつか歩いて来た近藤さんは俺の腕を掴むなり土方さんの名を大声で呼んだ。新撰組の幹部が揃うとなると幾ら腕の立つ奴らでも少しは恐れてくれるらしい。
だがもう遅い。
逃げる道は隊士たちに奪われ、反撃の術はたった一人の見知らぬ男に奪われてしまったのだから。
「全員頓所までしょっ引け。瀬川も一緒に来てもらうぞ。また事情を聞かなきゃならん。それに頓所でうるさい奴がお前を待ってる」
「――土方さん。俺が悪いんですよ。俺が無理矢理に沖田さんを」
手柄はくれると彼は言った。まるで水を得た魚の様に人を斬り始めた世荒し。だけど誰一人として死んじゃいないのは、なぜだ。
俺なら殺してる。
「瀬川の兄さん、止めて下さい。俺たちは兄さんのお陰で助かったんです。俺も色々学んだ」
「しかし、俺さえ無茶を言わなければこんな事にはならなかった」
「だけど人は死んでましたよ。始末書は慣れっこですから。もし気になるなら、今度俺と手合わせして下さい。それでちゃらです」
瀬川の兄さんは何の躊躇もなく深く頭を下げた。年下の俺に。
「と言うわけで土方さん。瀬川の兄さんの分まで俺が説明します」
「総司」
「頼みます」
「――始末書、倍は書けよ」
あぁ、災難だなあ。
刀を抜いてケンカも出来ないし火事には巻き込まれるし、始末書はいつもの倍だし。あぁもう。
だけど初めて、
死人を出さずに人を救った。
(01:沖田の憂鬱 終)