キミが刀を紅くした
夜帝はそう言って去って行く。俺はその背を見えなくなるまで睨み付けてから、華さんを見た。
「ごめん華さん、遅くなって」
「私の事は平気だよ、ありがとう丑松。それより京、あんたどうして丑松を呼んだりしたんだい」
「す、すいません」
どうして?
「俺は呼ばれなくても来たよ。京さんを叱るのはやめて。それに、何で俺を呼んじゃいけないの?」
女たちが黙り込んだ。多分、また俺の事を心配してくれてるんだとは思うけど、それにしても今回は相手が悪すぎるじゃないか。
俺じゃ頼りにならないの?
「――華さん、今日は休みな」
「だけど、丑松」
「いいんだ。それとお松、話があるんだけどちょっと良いかな?」
「構わないよ。先に首代の屋敷に行っておいてくれるかい?」
俺は頷いて一人島原最奥の屋敷へ向かった。歩く最中、俺の頭にはさっきの夜帝が言った台詞が何度も何度も繰り返されていた。
賢明に動くことだ。
草苅のように、な。
どうしてお松が出てくる。否出てくると言う事は何かあるのだ。俺に隠している何かがある。
俺は首代の屋敷を軽く叩いて戸を開けた。いつもは誰かしらが気付いて出迎えてくれるのに、今日はそれすらない。静かすぎる。
誰もいないのだろうかと奥の戸を知らせもなく開けると――首代たちがいた。数人は雑魚寝をしているが数人は座って談義中だ。
「あ、丑松さん」
一人が言うと起きていた全員が俺を見て話すのをやめた。それなのに顔は微笑んでいる。何だかいつもと違う、こんなの――違う。
「何の話をしてたの?」
誰も、答えない。
「妙さん」
「何でもないですよ」
「秋さん」
「大した事は話してないよ」
なんで教えてくれないの。
どうして、俺だけ?