キミが刀を紅くした

 俺は一通り部屋を見渡した。だけど誰だってそ知らぬ顔をする。



「俺はそんなに頼りない?」


「え」


「夜帝の話をしてたでしょう。俺には言えない? 対峙しても負けるから? 俺は力になれない?」


「違う、丑松さん、違うわ」


「ならどうして誰も言わないの。俺なんかじゃ島原を護れないとそう思ってるからじゃないの?」


「そんな事は誰も思っちゃいないよ。みんなアンタが好きなんだ」


「好きと頼りになるは別物だ。夜帝が来てからみんな俺を呼ばなくなったよね。京さんが居なきゃ俺は何も知らずに街を歩いてた」



 情けなくね。

 俺がそう付け足すと女たちはたいそう寂しそうに眉を下げた。だけどそうしたいのは俺の方だ。どうして彼女らが夜帝に従わなきゃならないんだ。どうして俺はそれを護ることが出来ないんだ。



「ねぇ、俺は、いらない?」



 そんなわけない。みんな優しいし俺の母親だし家族だから、いらないなんて馬鹿げてると思う。

 でも聞かずにはいられない。



「馬鹿を言うんじゃないよ丑松」



 誰も答えなかった不穏な空気を破ったのは、首代の頭であるお松だった。彼女は戸を開けたままゆっくり俺に近付いて、俺をじっと見据えてから頬に平手を打った。

 女たちがお松の名を呼んだ。



「どうして打ったか分かるね」


「わからない」



 そう答えるともう一度平手が飛んできた。これは何回あるんだろうと思っていたら、三発目に華さんがやって来てお松を止めた。

 後ろには京さんもいる。



「お松。もう、いけないよ」


「分かってるよ。悪かったね、丑松。先に二階に行っておいで。私と華宮もすぐ行くから」



 俺は痛む頬を押さえて部屋を出た。今のは俺が悪かった。そんな事は百も承知で分かっているさ。

 だけど嫌なんだ。

 ここから捨てられたら、俺にはもう行く所がない。捨てられないとは思うけど、それでも――。


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