キミが刀を紅くした

「この紙は何?」



 俺は手を伸ばして紙を引き寄せた。だが目の前にして達筆で文字を読んで行くにつれ後悔した。紙にはこう、記してあったのだ。

 宮川華。右の者、夜帝の従者として一生を尽くす事を誓う。尚その場合は島原を手放す事とする。



「華さん、これは」


「見ての通りさ。島原を空け渡してもらうための誓約書だよ」



 馬鹿げている。俺は紙を握りしめたまま言葉を発せないでいた。華さんが夜帝の従者として一生を尽くすだなんて、馬鹿げている。

 どうしてそんな事を、あぁ。



「さっき夜帝が華さんを連れていこうとしたのはこれ? でもこんな事をしても夜帝は島原を手放したりしないはずでしょ?」


「さっきのは夜帝が華を気に入って連れて行こうとしただけさ。華はそれを利用しようって言って」



 お松は口ごもった。それを継いだのは他ならぬ華さんだ。



「書きたいと言ったのは私だよ」


「どうして? こんな事をしても夜帝はまた帰ってくる。時間稼ぎをしてるに過ぎないじゃないか」


「そう、それが目的さ」



 華さんはにっこり笑った。



「時間を稼ぐんだよ。あんたの体力を万全に回復するためにね」


「俺?」



 お松と華さんは頷いた。

 だが俺は理解が出来なくて二人を交互に見続けていた。二人はそんな俺を見て互いに笑みを溢す。



「丑松、あんたは自分がいらないんだと言ってたけど、それは逆だよ。あんたじゃなきゃあたしたちを助けられない。そうだろ?」


「そうさ。だけどこの七日くらいは休む暇もなかったでしょう。だから休んで、丑松が万全の状態になったらで夜帝に挑んで欲しい」


「――うん」



 よく、分かった。



「誰も丑松がいらないなんて思ってないよ。期待してるんだ。あたしたちは丑松しか頼れないから」



 華さんはそう言って俯いた。


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