キミが刀を紅くした
島原の女は自由じゃない。それは夜帝の掟に縛られているからと言うのもあるが世間にも縛られているからだ。島原出の女はどうしてもそう言う目で見られがちだ。
俺が島原からの許可ない外出を認めない夜帝のやり方を引きずっているのはそう言う点からだ。
女は傷ついちゃいけない。
「行くのは華さんだけ?」
「あたしも行く。華一人じゃ心許ないからね。首代の面々にも島原の女たちにも、もう伝えてある」
「そう」
俺は懐に入れていた小刀を華さんに差し出した。華さんは顔を上げて俺を見ると微笑んでくれる。
いけないな。いつもみたいに破顔して笑ってくれなきゃ。これは俺が島原を護れてない証拠だ。だけど大丈夫。俺はもう折れない。
「華さん、俺に任せて」
「丑松」
「さっきはバカなこと言ってごめんなさい。もう言わないし、華さんがくれた時間は無駄にしない」
「でも、これは受け取れないよ。武器がなきゃ戦えないでしょう」
大丈夫。そう言おうとしたら先にお松が口を開いていた。
「心配ない。丑松に使えない武器はこの世にないさ。何せあたしが教え込んだんだからね」
「そう言う事。俺は宗柄にでも言って刀を借りてくるから。その代わりに夜帝の居場所は連絡してくれる? くれ次第すぐ行くから」
二人は力強く頷いた。俺は立ち上がり空を見る。暗くなった。宗柄は家にいてくれてるだろうか。
あぁ、そうだ。
「じゃあ休んでくる。日が昇るまでには帰るけどくれぐれも気を付けてね。相手はあの夜帝だから」
「分かってる。丑松、あんたも無茶をするんじゃないよ。死ぬくらいならあたしらを売るんだ」
華さんは大真面目にそんな事を言い、お松はそれに同意した。だけどそんなもん、意味がない。
俺は死なないし、
「死んでも護るよ」
きっと。