キミが刀を紅くした
「だけど刀は武士の魂でしょ。村崎殿は武士だから、簡単には受け取れないよ。そうでしょ?」
俺の問いに彼は笑んだ。
「困っている友人を助けない人は武士とは呼びません。それに俺は名落ちの武士ですから、大丈夫」
「――ありがとう、村崎殿」
自らを武士や強者と名乗る奴らの大半は、腕がたつだけで威張り散らす島原の敵の様な男だ。俺はあまり武士が好きではなかった。
だけど宗柄に会って理に叶った利口な武士の存在を知り、村崎殿に会って誠実な武士を知った。類は友を呼ぶと言うが、本当だな。
「本当にありがとう」
まだ世は捨てたもんじゃない。
こういう時、俺はそう思う。
「村崎殿、宗柄に会ったらよろしく言っておいてくれる? 俺はしばらく島原を離れなきゃいけないから。帰れるかも分からないし」
「分かりました」
真摯な目が俺をとらえた。その目に俺はどう映っているのだろうか。名残惜しさを感じながら俺は再び島原に向かって歩き始めた。
島原に入る前に少しだけ盗み見た花簪には、珍しく人が沢山入っていた。椿が忙しそうだ。
表面上はいつもと変わらない島原。だが夜帝は既にその身を色街に返していた。女たちの表情がやけに固いのはきっとそのせいだ。
「話は皆、聞いています」
「そう」
俺は出迎えてくれた京さんと共に村崎殿の刀を下げたまま島原奥の首代の屋敷へと向かった。お松はいなかった。きっと何処かへ見回りにでも行ったんだろう。
「夕御飯はどうします?」
「要らない。すぐ寝るから」
「分かりました。では日が昇る前には起こしに行きますね。ゆっくり休んで下さい、丑松さん」
彼女は切なく笑んだ。
それは家族が夜帝に連れて行かれるからか、それとも家族が夜帝にやられるからか――知れない。