キミが刀を紅くした
京旅館花簪。俺はその戸を叩いた。勿論後ろには沖田がついて来たまま。開かない戸を勝手に開けて足を踏み入れると、若女将が掃除をしながら出迎えてくれた。
「あぁ、すいません。気が付かなくて戸を開けられませんで……」
「構うな。それより中村」
「承っております宗柄さん、総司さん。あの方でしたら、二階の奥に来てお出です。どうぞ」
「あぁ」
中村椿。その名はまさに紅椿に入る運命を知っていたかの様なものである。彼女は紅椿の紅一点。
俺は刀を大量に持ったまま旅館に上がり、二階の奥へ向かった。
沖田は着いて来なかった。あの人に会うとなればさすがの彼でも色々と気を遣うのかも知れない。
一番奥の椿の間。俺は地に膝を着いて軽く戸を叩き、そして襖を静かに右に押しやった。
「あぁ宗柄か、良く来た」
俺は深く頭を下げてから部屋に入り、中に居る男の前に座った。
全ての刀は斬らぬと証明する為に俺と彼の間に置く。俺のと合わせば計七本。異質な光景だ。
「お久しぶりで。慶喜殿」
そこに居たのは徳川慶喜。
そう。俺と共に紅椿を立ち上げた例の人である。彼は監督に過ぎないが、実権は全て握っている。
「凄い数の刀だな」
「これは本職の方の届け物。今は京から出られないって言うんで諦めて戻って来たんですよ」
「ご苦労。桃の文は届いたか」
俺は懐からそれを出した。
「この通り。しっかりと」