キミが刀を紅くした
静かな夜は瞬く間に過ぎた。俺は誰かが叫んでいる声で目を覚ます。嫌な目覚めだ。だけど覚悟はしていたから、頭は動いていた。
だが。
「丑松さん!」
「――なんだ」
俺の耳元で叫んでいたのは他ならぬ中村椿だった。俺は身体を起こしてから血相を変えて声を枯らしていた椿をそっと眺めた。
きれいな声が勿体無い。
ふと外を見るときらびやかに光る電光がまだ夜中である事を密やかに告げていた。だがそろそろ起きても良いかも知れないな。
「何してるの、椿」
「何してるじゃありません。絹松さんにいただいた水饅頭を開けたら、紙が入ってて――それで」
「紙? 注意書か何か?」
「しばらくあなたの事を頼むと書いてありました。島原の方々の署名つきです。それで私はすぐに」
俺の事を頼む?
「すぐに来たんです。偶然ご一緒していた瀬川さんと総司さんと」
「二人は?」
「島原を走ってます」
「……なぜ?」
「島原の人を探すために」
島原の人。なんだそれ。
俺の頭は椿の言葉を飲み込めずに、ただぐるぐると回転しているだけだった。島原の人って誰だ。
何で探してるんだ。
「ご存じありませんか丑松さん」
「なにを」
「皆さんの行方ですよ。島原は今あなたしかいない。絹松さんも首代の方も遊女さん方も皆さんどこかに消えてしまったんです!」
消えた。
「――なんてこった」
あの人たちが、俺を信じて時間をくれたあの人たちが、俺を置いて消えるなんて事はありえない。つまり消えざるをえなかったんだろう、きっとあの夜帝のせいで。
連れて行かれたんだ。いやでもあの人数だ、やっぱり着いて行ったのかもしれない。俺が負けるからか? いや俺の身を案じて?
「――椿、俺は」
どうすればよいか分からない。
(01:吉原の動乱 終)