キミが刀を紅くした
慶喜殿は力強く頷いた。
「して、宗柄。近頃の噂は歳三から全て聞いているよ。大変だったみたいだな、お前も色々と」
「見っとも無い限りです」
「いいや、気にするな。桃文はその為のものなのだ。それは俺からの提案でもある、徳川の依頼だ」
依頼。だがこの中に文章が書かれる事はないはずだ。それは証拠が残るからと紅椿を作ったときに二人で取り決めたものである。
彼は俺の目を真っ直ぐに見て、静かに囁く様にこう言った。
「今回の件の目撃者を暗殺せよ。それが今回のお前の仕事だ」
今回の目撃者、と言うのは勿論村崎である。彼を、どうしろと?
「期限は付けぬが、紅椿の今後を考えるなら早いほうが良い。この意味は分かるな? 宗柄」
「良く、分かります」
「なら頼んだぞ。二度は言わん」
俺は平生を保ったまま彼に頭を下げ、椿の間から去った。刀を落とさない様に持ち階段を降りる。
下には茶を飲む沖田と中村が居て、降りてきた俺を眺めていた。
「旦那には会えましたか」
沖田は例の調子で俺に問う。俺は言葉でなく答えを伝えた。そして深呼吸をする。先程の言葉は頭の片隅へ追いやってみたが、やはり忘れられない。仕事だから忘れては行けないのだけれど。
「ただの仕事の話だった。俺はもう戻るぜ。またな、中村」
「はい。宗柄さんもお仕事を張ってくださいまし。またどうぞ」
沖田は変わらず俺に着いてきたが、俺が鍛冶屋へ帰るだけだと知るとすんなり頓所へ戻ってしまった。仕事放棄ではないのか。
俺は一人、苦悩した。