キミが刀を紅くした
大和屋は無表情のまま俺を見続けると、何も言わずに目線を逸らした。俺はそれに対して文句を言う事も感謝をする事もない。
ただ俺の頭はぼうっとしていたのだ。それで、大和屋はいつまで俺の事を心配し続けるんだろうかと、そんな事を考えていた。
「――じきに中村が村崎の刀を届けに来るから、言う事を聞け」
「どういう意味?」
大和屋は言い捨てて頓所から出て行ってしまった。俺はその後すぐに起き上がって丑松殿を見た。
彼は驚いて俺を見た。勢いよく起きた俺にではなく、そのせいで電撃の様に走った痛みに苦しむはめになった俺に、であるが。
「村崎殿、大丈夫かい?」
「すいません、勢いを付けすぎたみたいで。それより丑松殿こそ平気でしたか。俺のせいで大和屋に揺すられていたみたいで」
「宗柄は村崎殿の事になると容赦ないから。あぁ借りていた刀、そこに置いたからね。ありがとう」
「あぁ、はい」
「それから――ごめん」
丑松殿はそうっと布団から出ると正座をして額を畳に付けた。俺は慌てて彼の肩に手を伸ばそうとしたが、痛みが邪魔をする。
もどかしい事この上ない。
「巻き込んでごめん、村崎殿」
「止めてください丑松殿。あれは俺が勝手に首を突っ込んだだけですから、丑松殿のせいじゃ」
「俺のせいだよ。本当にごめん」
止めても無駄、か。まるでいつかの大和屋を見ている様だ。何で彼は謝っていたんだろう。何で俺はそれを見ていたんだろう。彼は誰に謝っていたんだろう。思い出せるのは大和屋の背中ただ一つ。
「俺も前に丑松殿に助けていただきましたし、それにまだこの件は終わってませんよね。島原の女性たちはまだ帰ってませんし」
「うん」
「なら」
彼は申し訳なさそうに顔を上げると軽く眉を下げた。なら早く彼女たちを何とかしなければいけないじゃないか。そう言おうとしたが、俺の言葉は遮られた。
入ってきた二人によって。