キミが刀を紅くした
「吉原の旦那! 逮捕を受け入れたってどう言う事なんですか!」
「失礼します」
腕に包帯を巻いた沖田さんと刀を抱えた加村さんが入ってきた。彼女が持つ刀は俺が大和屋に鍛冶を頼んでおいた錆びた刀だ。
それより、何だって?
「待って下さい沖田さん、何ですか逮捕って。いったい、誰が」
「吉原の旦那ですよ。夜帝にとどめを刺した場所が島原内じゃなくて逮捕ですって。事情が事情だから、抗議すりゃ良いものを」
「規則は簡単に変えちゃいけないじゃないか。そんな抗議は無駄だよ。トシが許してくれないさ」
「土方さんなら俺が説得します。椿の姉さんも手伝ってくれるらしいですし、瀬川の兄さんも」
「いけないよ総司。気持ちはありがたいけど世間が許さない。島原はこれ以上敵を作っちゃいけないんだ。ただでさえ多いんだから」
静かに首を振った丑松殿を見て何だか少し切なくなった。島原が敵だらけと言う意図は説明しなくても分かるだろう。女性だらけの閉ざされた世界を維持するのはたぶん、想像以上に大変だから。
それに敵だらけが大変なのは俺にも嫌なほど分かる。父に瀬川の名を貰った時は敵だらけだった。
でも、味方もいた。
「中村殿、大和屋から何か言われていたんじゃないですか?」
「あぁ、はい」
やはり。
中村殿は俺に刀を手渡して「まずは刀をお返しします」と小さな声で呟いた。そして俺を見る。
「瀬川さん。宗柄さんはあなたなら丑松さんを救えると仰ってました。どうか――丑松さんを」
「椿」
「丑松さんを助けて下さい」
大和屋め、相変わらず適当な事を言う奴だな。どうして俺が丑松殿を救えるだなんて言える。何の根拠もないくせに、よく言う。
いや、だがきっと。
きっと俺には出来るんだ。
「でなきゃ大和屋は言わない」
「瀬川さん?」
「ちょっと待って下さい」