キミが刀を紅くした

 久しぶりに頭が冴えている気がする。大和屋と悪戯をした後で完璧な言い訳を考えていた時みたいな感じだ。スキのない、理由。



「瀬川の兄さん、残念ですが紅椿を公の粛清の理由にするなんて」


「出来ませんね。でも土方さんならどうです。今まで散々紅椿に関する証拠を葬って来たお方です」


「賛成しますかね」


「してもらいます。でなきゃ捕まるのは沖田さんになりますよ。夜帝を調べれば分かる事です。まさか新撰組は調べもせずに人を捕まえる訳ではないでしょう?」



 致命傷は沖田さんの刀で刺した一傷。刀を持たない丑松殿が作れる傷じゃないのは一目瞭然だ。

 疑われるのは俺もだけれど、賭けるしかない。賭けは嫌いだけどこれも我慢するしかない。



「今のを瀬川が言っていたと土方さんに伝えて下さい。これで丑松殿は捕まらないでしょう。彼が何とかしてくれる事を願います」



 俺は立ち上がって芥生流水と錆びのとれた刀を腰に下げた。そうして中村殿を見た。彼女は先程から何かを言いたげに俺を見ていたのだけど、何だったのだろう。

 さておき、よくもこんなに頭が回ったものだ。後で土方さんにお詫びをしておかなきゃいけない。



「すいませんが、俺は一足先に、出ていかせていただきます。後の事はお願い出来ますか沖田さん」


「やってみます」


「……瀬川さん」


「はい」


「私も着いて行って良いでしょうか。ご一緒していただきたい場所があるのですが、どうでしょう」


「かまいませんよ。じゃあ行きましょう。きっと目的は同じです」



 俺が歩き出すと彼女はその後を静かについてきた。刀を二本下げている音は中村殿の足音を消していた。俺は時折振り返って彼女を確認すると、静かに頓所を出た。

 それから俺は島原に向けて歩き出す。途中に昨晩の現場を通り抜けたが滴った血は地面に染み込んでいるらしい。てんてん、と道筋を作るようにそれはあった。



「瀬川さん、どうして島原へ?」


「島原の女性たちを探す為です。見つからなければ丑松殿が捕まらなくても解決したとは言えませんし。新撰組は動けないでしょう」


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