キミが刀を紅くした
世間は敵だらけだと思っている丑松殿の力になれたらと思うのは自分の過去を彼に重ねているからではない。憐れんでいる訳でもないし偽善に走った訳でもない。
ただやらなきゃいけないと思ってしまっただけの事。義務と言うのがしっくりくるかも知れない。
「私が瀬川さんに着いて来て欲しいのも、島原でした。宗柄さんが島原にいる京さんに聞けば皆さんの居場所が分かると仰ったので」
「大和屋が」
「分かっているならどうして宗柄さんが行かないのかって聞いたのですが、俺は行けないと一言。だから瀬川さんに頼んでくれと」
なるほど。
「じゃあ女性たちを見つけたとしても大和屋の事は伏せておいて下さい。丑松殿にも言わないで」
「なぜです?」
「恩を着せたい訳じゃない、そう言う事でしょう。ただ純粋に力になりたいと思ったんじゃないですか? まあ、想像ですけどね」
俺は島原に足を踏み入れた。後から着いて来る中村殿はもう何も追求して来ない。よかった。
大和屋の気持ちは割りと分かるのだ。俺も多分、同じだから。感謝されたい訳じゃないのだ。全ての問題を片付けて普段通りにしたい。笑って会話をしたいだけ。
俺と中村殿は昨日京さんがいた首代の屋敷へ向かった。戸を開けても静かだったし、彼女がいた部屋の前に来ても物音一つしない。
だけど、彼女はいた。
「来る頃だと思いました」
窓から異様な世俗を眺めていた京さんは、俺たちを見て笑った。広い窓の燦に腰かけた様は、まるで遊女の様な艶やかさ。着飾ってもいないのに華やかに見えた。
俺は小さく頷く。
「知っているんですね。島原の女性たちが何処へ連れて行かれたのか――どうか教えてください」
「私が一人残されたのは、夜帝様に伝言係を命じられたからです。丑松さんを呼び出して、絹松さんや華宮さんの前でいたぶるのが目的だったのだと思います」
「ならなぜ言わなかったんです」
「言えますか。息子が傷つくと知りながら、どうして場所が言えましょう。それは絹松さんと華宮さんと――島原の女たちの意志でもありました。丑松さんを傷付けるなら死んだ方がましだ、とね」