キミが刀を紅くした
「それに、これが丑松さんを世間に戻す良い機会なんじゃないかと言う声もありましたから」
「世間に戻す?」
「私たちの為に丑松さんを島原に縛り付ける事はよくないですからね。自由に生きて欲しいんです」
自由。まるで重たい呪いの様な言葉に聞こえる。丑松さんを思う気持ちが嫌ほど伝わってきた。
京さんはそこまで言うと深くため息をついて立ち上がった。
「ご案内します。だけど夜帝様も居られるでしょうから、命の保証は出来ません。かまいませんか」
俺は静かに頷いた。すると京さんは歩き出した。中村殿も承諾した様だ。だけど彼女は武器らしき物をを持っていない。俺は軋む身体に鞭を打ち、深呼吸をした。
何とかしなければ。
もし、何かがあれば。
「でも、夜帝さんは昨晩――」
「死体は見つかってません。逃げ延びて行く所と言えば女の所ですよ椿ちゃん。きっと戻ってる」
京さんは一瞬だけ苦虫を噛み潰した様な顔をした。夜帝。確かに彼は強かった。三人がかりでやっと深手を負わせたぐらいだから。
きっと一対一は辛い。
でも今度は俺も刀を二本常備しているし、負けられない。負けら武士の名に恥じる。中村殿や島原の女性を護る事が出来ない。
友の期待に応えられない。
「瀬川さん、大丈夫ですか?」
「え?」
「顔色がよくありません。お身体が痛みますか? 無理なさらないで下さい。私だけ行く事も――」
「平気。ありがとうございます」
無理をしてでも行く必要があった。丑松殿や中村殿、それに大和屋の為に――なんかではない。
俺は俺の為に行く。
いくら何でも負けっぱなしは気にくわない。俺は世荒しで武士で男である。気にくわない事は勿論大嫌い。大和屋ほど横暴ではないつもりだが、用は勝ちたいのだ。
「俺は行きます」
「辛い時は無理をなさらないで下さい。元も子もありませんから」
中村殿の言葉に俺は笑った。