キミが刀を紅くした
正確にどこの道を通ったかは覚えていない。ただ島原からも町からも離れた場所だと言うのは分かる。京さんいわく、夜帝の持っている家の一つ、だと言う事だ。
俺は痛む全身を無視していた。すると次第に脳が麻痺してくれたらしく、感じなくなっていた。
「開けますよ」
二人が頷いたので俺は木の戸に手をかけた。ゆっくりとそれを引くと不安顔の女性たちが視界に入る。だが少し違ったみたいだ。
多分、丑松殿を待っている。
「京、あんたどうして」
「夜帝様は居られないんですね。なら今のうちです、皆さん早く」
俺は一瞬、殺気を感じて京さんを引っ張った。刀を抜くのが間に合わないと感じたのは本能だった様にも思える。とにかく俺は刀を鞘ごと持ち上げて攻撃を受けた。
鞘が割れなかったのは、彼が京さんを脅すだけのつもりだったからだろうと思う。真偽は謎だが。
だがそんな事はどうでも良い。
「昨晩の侍か」
「覚えていただけたみたいで」
俺は鞘を投げ捨てて刃を剥き出しにした。戸を全開にしてこちらに歩いてくる彼はやはり、笑みを浮かべている。俺は息を呑んだ。
突き飛ばした京さんは割りと距離があるから良い。問題は中村殿だ。俺のすぐ後ろに立っている。
「女連れで仕返しか?」
「夜帝殿、女性を連れているのはあなたも同じではないですか」
「ワシは連れているのではない。蔓延らせているのだ。来いと言わずとも、きゃつらは俺に従う」
「それはどうでしょうね」
これで負けたら、俺はもう彼には勝てない。だがこちらが勝てば何ら問題はない。俺は勝ちに来ているのだから、容赦はしない。
「中村殿、京さんと一緒に後の事をお願いしても良いですか。俺はさすがに……手一杯ですから」
「――お気をつけて」
中村殿はいつも誰かを見送っている。だからきっと躊躇はしないんだろう。あぁよかった。ここにいるのが中村椿と言う人で。
少しでも止められたら、俺は覚悟を揺らがせて逃げただろう。