キミが刀を紅くした
村崎と俺が出逢ったのは年端も行かない頃の事。物心ついた時には両親がいなかった俺は鍛冶屋の祖父に育てられたのだけれど。
そこにやってきたのが村雨殿と村崎。鍛冶の修行ばかりやらされていた俺は遊び相手すら刀だったが、この時初めて同年代の友人が出来たのだ。稽古馬鹿だったが。
「瀬川村崎を殺す」
だから村崎は初めての唯一の友人なのだ。そんな彼を殺す。それが俺にとってどれだけ覚悟のいる事か。彼を殺すなんて考えるのも恐ろしい――のだけれど。
俺が背負っているものは徳川の幕府である。もしも村崎が紅椿の事を世間に知らせでもしたら、この世は終わってしまうかもしれない。いいや、確実に終わる。
それに、紅椿に加担する人々の人生すら壊してしまう事になる。土方も沖田も中村も他の奴も。村崎一人を殺すのか、それとも犠牲を承知で慶喜殿に歯向うのか。
考えれば考えるほど、答えは思考の奥に沈んでいく。だが沈むと言う事は既に答えが出ている証拠である。初めから考えなくても良かったのかもしれない。
俺は自分の刀を腰にさして立ち上がった。向かうは村崎の家である。覚悟はもう決めていた。揺るがないうちに向かわなければ。
疑いなどもうどうでも良い。