キミが刀を紅くした

 真実の話はこうである。

 襲撃があって城の忍は全て制圧に向かった。そんな中、俺は主を護るために裏口から抜け出した。だが裏にも数人の浪士がいて、俺は戦った――いや、俺と、黒が。



「黒と言うのは?」



 瀬川は今度、俺の真実に耳を傾けていた。大和屋は面白くないとばかりに拾って来た黒犬と遊び始める。俺はそれを横目で見た。


 ――黒。

 黒田影麿。幕府を守る為に徳川に仕えていた御庭番の一人だ。忍の中では特に素早く優秀だった。だが主はあまり好いていなくて、いつだったか、黒を切ったのだ。

 物理的にではなく。



「黒い狂犬は黒田影麿の別称だった。だが黒は切られたから、俺が代わりにその名を継いだんだ」


「じゃあ、今回の襲撃予告はその黒って奴が一枚噛んでてもおかしくないな。クビにされたんだろ」



 否定は出来ない。

 そんな事を考えていたら、瀬川が「あ」と間抜けな声を出した。世荒しが聞いて呆れる声だ。



「天誅実行は夕刻だと聞きましたが、行かなくて良いんですか? まだ昼とは言え、じきですよ」


「言われなくても行く。だがその前にお前に一つだけ尋ねたい」


「なんです?」


「島原の件、詳細が知りたい」



 瀬川は微笑んだ。



「詳細と言っても簡単なものですよ。俺は攻撃を受けただけ、この芥生流水でね。何度も折られると思いましたけど、耐えました」


「だから折れないって言ったろ。でなきゃ幕府に献上しねぇよ」


「ははっ。まあとにかく片を付けたのは大和屋と丑松殿です。片を付けたと言っても逃げましたが」



 俺は大和屋を見た。だが彼は犬に夢中で気付いていない。もうどうでも良いらしい。俺もこれ以上追求するのは止めておいた。

 夜帝はきっとまた島原を取り戻しに来るに決まっている。それに目を見張らなければいけない。



「もう行くのか?」


「行く。邪魔したな」



 ――わん。

 黒が吠えた。


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