キミが刀を紅くした
日が落ち欠けていた頃、ようやく新撰組がやって来た。俺は言われた通りに主を起こして近藤と沖田率いる一番隊がいる部屋へと彼を誘った。だが主は、寝起きの為に欠伸が止まらないらしい。
「待たせた。ふああ、失礼」
「慶喜殿」
ごほん、と咳払いがあった。
途端、主は欠伸をしなくなり、虚ろだった目も焦点を得た。近藤は思い出したと言わんばかりに隊士に指示をして頭を垂れた。
主は満足気に頷く。
「良い。頭を上げなさい」
「――はい」
「半助」
主は俺を見た。俺は息を吸って返事をした後で少しだけ前に出ていく。だが当然主よりは後ろだ。
黒犬と共に、幕府に
――天誅を下しに参る。
「噂は聞いていると、思う」
近藤が代表して頷いた。
「浪士は夕刻に来るとあった。だから新撰組はそれに合わせて全ての入り口を見張って欲しい」
「承知した。忍殿、一つ伺ってもよろしいか? 貴方方の黒犬の解釈をお聞かせ願いたいのだ」
俺は主を見た。
「お前の考えを述べなさい半助」
「黒犬とは――新撰組の事。それを先に歩かせる事により、人の有無を確かめる目的があるかと」
「まさか、何ですって?」
沈黙があった。だがすぐに主がそれを笑い声で破る。豪快な笑い声に隊士が数人つられていた。俺は押し黙ったまま収まるのを待っている。分かっているさ。
戯れ言なんだ。
「良い。それこそ黒犬と呼ばれる男の答えだ半助。間違っちゃいない。俺もその答えに賛成だよ」
「――光栄です。例え戯れでも」
「戯れなものか。大真面目だ。幕府の犬と呼ばれている誠を疑うのは最も、正当な思考じゃないか。主人を疑うものじゃない半助。さて他に問いたいことはあるか?」
主の笑い声に隊士は黙った。