キミが刀を紅くした
京の街は橙色の空に染められていた。人々は足早に家路につこうとしている。俺はそんな人の流れに逆らって道を歩いていた。
昔は村崎の家も街の中にあったのだけれど、村雨殿が徳川から出た後は居ずらかったのか、街外れに引っ越してしまったのだ。
「何処行くんだ、宗柄」
「――吉原か」
「総司が出るなって言ってたよ。それでも、出てしまうの? 今度ばかりは餌食になるかもしれないよ。トシや総司の組の」
「どっちにしろ同じだろ」
殺さなくっても捕まる。殺しても俺は自分で自分を殺すだろうから。どっちにしても同じこと。俺は決して逃げられないのだ。
あの時、もっと強く村崎を止めておくべきだったのだ。今の状況はそれが出来なかった俺のせい。
「ねぇ宗柄。お前、ちゃんと紅椿に帰って来るんだろうね?」
「さあな」
「宗柄が帰って来なかったら俺は――村崎殿を殺しに行くよ」
「俺が今から殺しに行くのにどうやって殺すってんだ、お前は」
俺は煙管に火を入れた。煙が橙の空に舞い、ゆっくりと消える。吉原は俺の肩を掴んだが、俺はそれを振り払って歩き出した。
「本当に殺しに行くの?」
「くどい奴は嫌いだ、吉原」
一言告げると彼は黙って道を開けてくれた。同じことを何度も言えるわけがない。もう一度言葉に出しただけで俺は発狂しそうだ。
だがそれに反して、俺の脳内では自分に言い聞かせる様に繰り替えされていた。村崎を殺す、と。