キミが刀を紅くした
疑惑と熱情の代償
裏切り。それはきっとどこの世にもあるもので、どこの世でも消えないものなんだと、そう思う。だが俺たちはそれを許さない。それが正義と反するからである。
「じゃあ手紙は渡しましたよ」
「あぁ、御苦労さま」
紅椿の文を懐に入れてから、俺は総司を見た。羽織に血が吐いている。先日の裏切り者粛清の時のものだろう。だが俺は何も言わなかった。奴には血が、似合う。
だがあの襲撃には裏があったのはないかと、俺は思っている。確証なんてものは勿論ないけれど、それでも疑わしき事件だった。
「土方さん、聞いてますか」
「あ、何だ」
「何だじゃないですよ、今日の見回り土方さんだから早く行った方が良いって言ったんです」
「あぁ」
そうか、今日は俺か。
「分かった。お前は非番か?」
「非番は明日。今日は夜勤です。どうしたんですらしくないな。嫌でも隊士の予定を覚えちゃう人がどういう風の吹きまわしですか」
「いや、ただ忘れてただけだ。俺だってたまには忘れる事はある」
「だと良いですがね、副長が何かあってからじゃ洒落になりませんよ。気をつけて下さいね」
「分かってる」
総司にそんな事を言われるなんて思ってなかった。俺は少し自嘲気味に笑ってから立ち上がった。
見回りか。思い出せ、確か。
「土方さん、もう一つ」
「……何だ」
人が思案している時に。
「気をつけて下さいね」
「それはさっき聞いた」
「違いますよ、あれは副長に言ったまでで。これは……例の件についての警告です。忠告、かな?」
「分かった分かった」
総司は少し笑ってから俺の部屋から去って行った。おれは見回りに行くために立ち上がる。
そうだ、思い出した。