キミが刀を紅くした
確か今日の見回りの組は俺と永倉だったはずだ。二番隊の男である。剣術の腕は確かであるが、少しばかり惚れっぽい所が玉に傷と言った所であろうか。まあ、そんな事はどうでも良いのだけれど。
「あぁ副長、探してました」
「探してた?」
「見回りでしょう」
「俺は部屋に居たぞ」
「可笑しいな、俺は何度か部屋を覗きに行きましたよ。部屋を間違えてたのかな。まあいいや」
永倉はもう出かける準備をしていた。帯刀もしっかりと決めて屯所の扉を開けようとしている。俺はそれを気にせずに草履を履いてゆっくりと立ち上がった。
「行きましょう。甘味屋の通りを島原まで、の道筋でしたよね」
「あぁ、そうだ」
永倉に続いて俺は屯所を出た。
紅椿の文は確かに懐に入ったままである。総司からいつも通り口伝えに聞いた内容はこうである。
甘味屋の主人、弥七が攘夷に加担している恐れがある。調査の結果次第では紅椿を執行せよ。
まだ決まった訳ではないらしいが、それよりも。慶喜殿が攘夷の事に口を出してくるのは初めてである。彼が紅椿を執行するのは幕府に間接的に仇を成す者に限っての事だと思っていた。否、今までは確かにそうだったのだ。
「今日は晴れてますね」
「あぁ、そうだな」
嫌な心変わりと言う奴だとしたら、新撰組の信頼が落ちたと言う事になるだろう。もしかして慶喜殿は紅椿を新撰組の後釜にするつもりなのだろうか。いやまさか。
だが杞憂は杞憂を生む。
前に総司が鬼神か夜帝を殺せと言われた時も、前回の新撰組の裏切りで黒と言う奴と服部が刀を交えた時も。二人は試されていた気がしてならない。果たしてそれが何を意味するのかは知らないが。
「副長、具合でも悪いですか」
「いいや」
「顔色があまり良くないです。それにさっきからずっとうわの空ですし。どこかで休みますか?」
考え事をしていたのは確かであるが、体調は別に悪くない。だがうわの空だったのは否定出来ないらしい。既に甘味屋の所まで来ている。いつの間にと言う具合だ。
「……甘味屋で休むか」