キミが刀を紅くした
その言葉に永倉は二つ返事で俺を甘味屋の椅子に座らせた。そして娘に茶を二つ出してと急かす。
「珍しいね、ここに来るのは」
そんな声が隣からして、俺は無意識に声の主を確かめた。するとそこには派手な着物と煙管を引っさげた男、吉原丑松がいる。ついでにその隣には厄介な瀬川も。
瀬川は俺を目が合うのを待ってから小さく会釈をした。
「副長、あぁ吉原さんもいらしてたんですか。ご無沙汰してます。それにえぇっと、瀬川さんでしたかね。貴方もお久しぶりで」
永倉はそう言って俺に茶を手渡した。早くしろと娘を急かした癖に結局は自分で持ってくるのか。
それにしても。
「お前、瀬川を知ってるのか」
「えぇ、紅椿で疑われていたお人ですよね。それに吉原さんとよくお二人で甘味屋に来てますし」
「うん、よく会うよ」
「男二人で甘味屋か」
「トシも人の事言えないけど」
確かにそうだ。
俺は咳払いをしてから永倉を見た。座りもせずに茶を飲む姿を見て甘味屋の娘と主人が肩を並べて笑っている。愛嬌と言うのか何なのか。永倉は気づいている様だ。
「永倉、お前先に見回りを済まして来てくれ。島原までの道だ」
「はい。でも副長は」
「気分がましになったら動く」
「分かりました。じゃあ行きますけど、お大事にして下さいね」
永倉は茶を一気に飲み干して俺と甘味屋の主人、娘に深く頭を下げた。それから吉原と瀬川にも。そして何の疑いも持たずに色町の方へ歩き始めたのだった。
「土方さん、大丈夫なですか?」
「何がだ」
「あの隊士さんの言い方じゃ、どこか体調が優れない様子ですが」
「気にするな。戯言だ」
俺は団子を一つ注文した。