キミが刀を紅くした

「それで話は?」


 頼んだ団子を待っていると、吉原が三色団子を一つ食べながら俺にそう問い掛けた。話があるとは一言だって言った覚えはない。

 だが。



「よく分かったな」


「今のどう見ても人払いでしょ。甘いものなんて食べない癖に、団子なんか頼んでどうするの?」



 吉原はけらけら笑った。だがそれは道行く人の視線を集めるだけである。俺がそれにため息を吐くと瀬川が立ち上がって言った。



「席を外しましょうか?」


「――気を遣うな。紅椿の件だ」



 瀬川が黙って腰を下ろす。

 甘味屋の中では人気者の娘が客の相手をしていた。その間に主人の弥七が団子を拵えるのだろう。



「奇遇。俺もその事で村崎殿を呼び出したんだよ。最近の慶喜殿の動向について意見が欲しくてね」


「どういう事だ」


「夜帝の一件。総司が俺か夜帝を殺せと命じられた件だよ。あれは総司を試してたんじゃないかって、俺はそう考えてるんだけど」


「瀬川は何と答えた」


「……分からない、と」


「すいません。でも紅椿の事は何となく分かっても慶喜殿の思考を読むなんて事は、出来なくて」


「そりゃそうだよね」



 気にするなと言う代わりに吉原はまた笑って見せた。瀬川も笑みを返す。だが俺は笑わなかった。

 吉原までもがそんな事を思っている。俺は多分その試されている最中なのだろう。紅椿を執行するかしないかの選択肢があると言う事は判断力が試されているのか。

 笑っている場合ではない。俺の評価は延いては新撰組の評価に繋がると言っても過言ではない。



「それで、トシの話は?」


「もしかして土方さん、今夜に紅椿を執行なさるんですか」


「まだ調査中だ」


「と、言いますと?」


「……耳を貸せ」


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