キミが刀を紅くした
「それは俺が勝つ計算か?」
「さあな。知らねぇ。だがお前が乗らないなら話は終わりだぜ」
「お前が甘味屋の主人をしっかり調べると言う証拠もないのに、そんな話に乗れる訳がないだろう」
「それもそうだ。だが紅椿の件なら俺が一番の責任者だってのも忘れてねぇだろ。しくじるのも露見するのも俺が一番困るんだぜ」
大和屋の言葉は分かる。だがそれを信じてはいけないと本能が呟く気がして、どうも素直に頷けないのだ。ひねくれた思考だな。
俺は後悔する。なぜ一人で解決しなかったのかと。なぜ大和屋なんかに話を持ちかけたのかと。
「分かった。話には乗る。だがしくじってみろ、俺はお前を紅椿の首謀者として捕まえるからな」
「人に頼んどいて何つう奴だ。まあいいよ、好きにしな。とりあえず、今夜決行で良いか?」
「俺は構わない」
「なら今夜。皆が寝静まる頃に甘味屋の前で待ち合わせだ」
俺は小さく頷いて踵を返した。大和屋の敷居を跨いで外に出ると偶然か必然か、服部が居て。
辺りを見渡してから俺にしか聞こえない声で静かに呟いた。
「裏口は一つじゃない」
「どう言う事だ」
「大和屋は気付いているが瀬川は多分気付いていない。主の伝言は以上だ。他に言う事はない」
去って行く服部。妙に怪しい。徳川の主に助言の様な事をされるなんて。やはり今度の紅椿は少し違う。何がだろう、何かが違う。
俺は辺りに誰もいない事を確かめてから頓所に戻った。町が眠るまで時間がある。やる事は山程あるのだがら暇になる事はない。
夜番と勤務を交代してもらうかな。今夜の見回りは誰だっただろうか。あぁ、思い出せない。