キミが刀を紅くした
頓所に帰った俺はすぐに自室に入って書類整理を始めた。永倉が訪ねて来たが体調が悪いと嘘を付いて下がらせ、心配して来た隊士には寝れば治ると言い聞かせた。
攘夷の件が書かれている書類の中から甘味屋付近で起こった件を一つずつ洗っていく。気の遠くなる様な量だったが仕方ない。
何の為に、と聞かれたら俺自身引いては新撰組の為にと答える。大和屋は多分しっかりと甘味屋の主人を調べるだろう。だが俺は目で見て確かめて実感が欲しい。
仕事柄人に物を聞く事が多いけれど、やはり実践のやりがいに比べれば大差である。俺は今回そのやりがいを捨ててしまったのだ。
なぜか?
やはり己と誠の為に、だ。
「――ぜ、引きますよ」
「あ?」
「風邪。そんな所で寝たら風邪引きますよって言ったんです。て言うか何で書類整理なんかしてるんで? 土方さん、体調は?」
矢継ぎ早に口を動かす総司。俺はその言葉を全て飲み込んでから自分が寝ていた事に気付いた。書類が散らかっている。考えてる間に寝たのだろう。体が痛い。
時間は知れない。だが辺りは暗く、総司が持っている提灯だけが俺の部屋を明るく照らした。
「本当に大丈夫ですか」
「あぁ、問題ない」
「なら良いですが。あぁ永倉さんが土方さんの分の団子食っちまったーって言って甘味屋行きましたよ。もう遅いって言うのに。今度土方さんから言ってくださいね」
「言う? 何をだ」
「――夜に勤務者以外が歩き回るのはあんまり都合の良い事じゃないと思うんですけどね、俺は」
総司の言葉に俺ははっとした。
俺は今夜甘味屋に行かなきゃいけないのだ。鉢合わせる可能性があるじゃないか。全く、何だ。
「おい総司、今夜の勤務は誰だ」
「――土方さん、本当に休んだ方が良いんじゃないですか?」
「要らん。早く言え」
「今夜の番は俺ですよ。これ朝にも言いましたよね。出る前に土方さんの様子を見に来たんですが」
大きなため息を吐いた総司は首を振った。そして「やっぱり見に来てよかった」と、呟いた。