キミが刀を紅くした
「土方さん今日は休んで下さい。用事なら明日すれば良いから」
「そういう訳にはいかない」
「約束した方がいるなら、俺から言伝てしておきます。今の状態で行っても何も出来やせんぜ」
総司は言ったが俺は立ち上がって帯刀した。大和屋なんて待たせれば良い。だが紅椿の一件だけは後回しにしては、いけない。
俺の判断一つで誠の定めが決まるのだ。寝てる訳にはいかない。
「土方さん。冗談じゃなく、体調悪いんじゃないですか? 若しくは極度に情緒不安定ですね」
知るか。
俺は頓所を飛び出して足早に甘味屋に向かった。総司は「俺も見回りなんで」何て言いながら少し駆け足で後ろをついて来る。
幕府。何と言われようが俺はそれに忠実に生きなければならないのだ。新撰組を守るために。世間から悪を消し、生きるために。
俺を救ったあの人のために。
「――土方、村崎はまだ来てないが、お前のとこの隊士が来てる」
「永倉だろう」
「知らねぇよ。だが先に来て、見つけちまったみたいだぜ。攘夷志士の会合を。残念ながら、な」
甘味屋の灯りは消えている。だがよく見ると微かに、闇に紛れて動く影が幾つも見える。あれは何だ。家族にしては数が多いな。
「中に捕まってるって事ですか」
「沖田も居たのか」
「まあ仕事なんでね。それで、何で大和屋の旦那は外に? 永倉さんが捕まるの見てたんですか」
「俺が出てったらややこしくなるだけだろうが。土方が来るって分かってたんだし、待つのは普通」
俺は戸に近寄って耳を寄せた。確かに物音が聞こえる。総司を見ればにこにこ笑ってやがる。
もしかすると、もうすぐ瀬川が来やがるかも知れない。決断は早くしなければいけない、のか?
「総司、裏に回れ」
「へぇ。でも旦那は?」
「……瀬川が来たら事を説明する係りだ。これは俺たちの仕事だからな。いいか、大和屋」