キミが刀を紅くした
最後の一本となると少しばかり心許ない。そろそろ折れた刀を直すために鍛冶屋にでも赴かなければいけない。一本目が折れた時点で行っておくべきだったのだが、仕事で使うでもなくただぶら下げているだけの刀であるから急ぐ必要がなかったのだ。あぁ。
俺は目の前にある七本目の刀を鞘から抜いた。薄暗い倉ではよく分からないが、刀身が折れていないことは確かだ。俺はそれだけを確認してそれを腰にさす。
それから折れた六本の刀をまとめて背負って、俺は倉を出た。向かうは鍛冶屋である。街に『大和屋』の看板を掲げた輩がいたはずだ。そこに行く事にしよう。
街に行くのは久しぶりだった。職探しも殺伐とした街外れでしかしていないからだろうが……だが街でやるには捨てられた瀬川の名は少々通りすぎているのだ。
だがその分、俺には街に住む顔見知りが多くいた。だから父が亡くなった後、俺の仕事を世話しようと尽力してくれた人もいる。
甘えるのは簡単だった。だが迷惑をかけるのも目に見えていた。
「おっと、悪いね」
「いや、此方こそ」
街に入る最中に誰かと肩を交わすのも人が多い京街ならではである。会話は会話を生み、絆を生んで行く。そうして人は――。
ふと、目の前から帯刀した男の集団がぞろぞろと歩いてきた。あれが世に言う新撰組。何かあったのだろうか、と足を止めれば彼らの一人が俺の前に足を止め、集団は列を保ったまま静止した。
「不用心な兄さん。刀抱えるのは良いが、お財布は無事ですか?」
「財布?」
「兄さんがさっきぶつかった男、気は弱いが、スリの常習犯なんでね。一応聞いてみたんですが」
男は申し訳なさそうに俺を伺った。その言葉に急いで懐を確認したが財布は見当たらない。彼の言う通りやられてしまったらしい。だが、全財産が入っていた訳でもあるまいし気には病めなかった。
寧ろこれは小銭程度で罪を負った彼の方を気に病むべきである。
「財布はありましたか?」
「いや。だが取り返したいと思うほど入っていた訳じゃないから」