キミが刀を紅くした

 街を出て数分。俺は瀬川村崎の家の前に居た。そうして静かに扉を叩く。中からは小さな返事と、廊下を歩く足音が聞こえた。

 ――村崎が出てくる。



「何でお前が此処に居るんだ」



 だが、出てきたのは村崎ではなく土方だった。俺は彼の言葉をそのままの形で彼に返す。

 彼は仕事だと言うだけだった。



「それでお前は」


「俺も、仕事だ」


「……どっちの仕事だ」



 問い詰める時の彼はまるで尋問をしている様な声になる。有無を言わせないと言う点で、彼が誠を背負ったのは正解だった。

 だが誠を背負いながら幕府に仇を成す輩を粛清するのは大変だ。



「鍛冶屋」


「じゃあ刀はどうした」


「置いてきた。あれだけの刀を持って歩くのは大変だからな」


「そうかよ」


「村崎は?」


「お前には会わせられない。これは新撰組副長としての仕事だ。言伝だけなら伝えてやるが」



 俺はため息をついた。土方は家から出て戸を閉める。村崎に聞かれない為だろうか。その配慮が余計に俺の心を急かさせた。

 覚悟が揺るぎそうだ。



「お前紅椿の仕事で来たんじゃないのか。瀬川村崎を殺しに」



 あぁ、彼は知っているのだったな。勘が鋭いんだよ、全く。文を預かっただけじゃないのか?



「今日やるって言うのなら、俺が相手にならなきゃならないが」


「何でだよ」


「俺は副長として仕事中だからだ。言ったろ。今は瀬川を守るのが、俺の副長としての職務なんだ」


「あぁそうか。なら助かる」



 俺は刀を抜いた。



「土方。俺が村崎を殺す前に俺の事を殺してくれねぇか?」



(00:大和屋宗柄 終)
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