キミが刀を紅くした
消え行く信念
時々、俺は間違った選択をしたんじゃないかと不安になる時がある。だが人生はやり直せない。なら間違えたなら謝るし道を違えたなら少しずつ戻せば良いのだが。
だが、戻れない場合はどうすれば良いのだ。戻れない場合は。
「大和屋、何してるんだ」
「お前が来るのを待ってたんだよ村崎。土方に言われて、な」
「土方さんに――彼はもう中に入ってるのか? まさかもう」
「土方から全部聞いてる。だから俺が調べたんだよ。甘味屋の旦那は攘夷には関わってなかった」
大和屋が暗闇の中早口に説明する。だがその声は少し焦っている様にも聞こえた。嫌な予感が沸々と心に沸いてくる。なぜか。
なぜか悪い事をした気分だ。
「だが甘味屋の娘が関わってた。後、多分新撰組の奴も娘にたぶらかされて、関わっているはずだ」
「土方さんは今何処に」
「中にいる。行くのか?」
「行く」
「行ってどうする。紅椿には執行されないし、残ってるのは粛清と捕縛。新撰組の仕事だけだぜ」
「だが行かなければ――いけない気がする。俺は、中に行く」
大和屋がふわりと笑った。だがやはりその笑みは不安を増幅させるばかりだ。なぜ。なぜだ。
否、俺の心が不安定なのか。
俺は腰に下げている刀の柄を一度握って、甘味屋の戸の前に立った。そして開けようと、した。
――びしゃ、っと。
戸に何かが飛び散った。一枚板を挟んだ先で何が起こっているのだ。暗い場所では見えないが、微かに……血の臭いがする。
俺は急いで戸を開けた。すると俺にもたれ掛かる人。そして差し込む光に煌めく銀の鋭い刃。
「あなたは」
「……せが、……わ、さん」
か細い声が心に届いた。この人は甘味屋の娘さん。いつも笑顔を振り撒いていた可愛らしい、子。
なぜこんなにも血濡れているのだ。痛々しい姿。左肩から右の脇腹までの大きな刀傷。溢れ出す美しいほど赤い鮮血。あぁ。
彼女は死ぬ。