キミが刀を紅くした
「いつもこうなのか?」
「何が」
「お前が指示を出して執行した人を無実にする。それで世間的に紅椿が成立すると言う事か?」
大和屋の鍛治屋に戻った俺は落ち着くなり明け方まで彼に質問攻めをした。大和屋は欠伸をしながら文句一つ言わずに答える。
外は静かだった。だが裏の甘味屋は静かではなかった。沖田さんが言われた通り新撰組に報告したのだろう。だから俺たちは起きていても灯りを付けていなかった。
「いつもじゃない。大抵は自分で考えて始末をつける。服部は特にそうだな。だが俺が指示を出す時はそれに従う決まりだ。一応、俺の立場は紅椿の統治者だからな」
「執行した人を守るのか」
「いや、紅椿を守るんだよ。執行人が頭も使わず下手をすれば、俺はそいつを殺さなきゃならない。ただ目的は紅椿を守ることだ」
「――そうか」
「紅椿があるから世間は平和でいられる。徳川に仇を成す者を消すと同時に悪を牽制してるからな」
俺は紅椿を深く考えていなかったのかも知れない。何となく理由も聞かずに指示された事に従うのが良い事だと思っていた。
だが違う。
己の保身より、紅椿は守らなければ行けない秘密なのだ。紅椿は必要な存在なのだ。この世に。
「大和屋、いつから考えてた?」
「何を?」
「紅椿を作ろうって」
「昔から。爺ちゃんが死んだ時ぐらいからかな。お前と出会って爺ちゃんが死ぬまでの間だな」
「何で俺には言わなかったんだ」
「――友達を悪事に巻き込めってのか? 大体俺はお前が紅椿に入るのだって反対したんだぜ」
「だが俺は入ってる」
「慶喜殿のせいだろ。あの人は、俺がお前を紅椿から遠ざけようとしてるのを知ってた癖に――お前に手伝え、なんて言ったんだ」
悔しそうに下唇を噛んだ大和屋だが、すぐにため息を吐いて俺の方を見た。眉が下がっている。
「ごめん、村崎」