キミが刀を紅くした
「沖田さん」
「何ですか瀬川の兄さん」
「俺のせいかも知れません。土方さんがあぁして人を斬ったのは」
思い起こすと、俺が土方さんに言った沢山の言葉は。知らぬ間に彼を追い詰めていたのだ。立場のない俺は立場のある彼の心が分からない。だから言ったのだ。
守るためにアナタを斬ると。
甘味屋の主人は旧知の方だったから、俺は彼を守るために躍起になっていた。何も考えずに。
「俺が彼を追い詰めた」
「そりゃあ、果てしなく甘い考えですよ瀬川の兄さん。もし兄さんが土方さんを追い詰めたのだとしても、それに揺らいだ土方さんが悪いでしょ。ねぇ大和屋の旦那」
「――さあな」
「全く。旦那は兄さんの事になるとてんで使えないんだから。とにかく兄さんが憂う事はない」
「沖田さんはどうしてそう言えるんです。誰にも分からない事を」
「俺の知った事じゃないからですよ。土方さんが何を思おうが誰にそそのかされようが、兄さんが旦那が何を考えようが関係ない」
暗闇でも分かる。彼は未だに口許に笑みを浮かべている。だけど楽しそうじゃない。寧ろ苦悩。
分からない。
「それより旦那方、明かりを消してるからって容易に紅椿の事を喋るもんじゃないですよ。来たのが俺だったからよかったものを」
「あぁ、聞こえてたのか」
「気をつけてもらわねぇと困りますよ。旦那を殺すのはちょっと骨が要りそうだから。あ、それと」
「何だ」
「お二人は今夜のうちに俺がここで事情を聞いたって事にします。口裏合わせてくださいね」
沖田さんはそう言うなり鍛治屋を後にした。頭を抱えた大和屋は本日何度目かのため息を吐く。
沖田さんは自分で考えてその行動をした。紅椿のために。
「あいつに負ける気はしないんだがな。まあ今日は久しぶりに泊まってけ。沖田が言うには、今夜は一緒にいなきゃおかしいからな」
「――あぁ」
「考え込むなよ、あんまり」