キミが刀を紅くした
選ぶべき道
瀬川の兄さんが消えた。それは俺たちの間で割りと重大な事件になっていた。事が露見したら甘味屋の一件に関わっていたと思われるかも知れないからだ、と思う。
正直俺はどっちでも構わない。兄さんが関わってないのは俺や大和屋の旦那が知ってるし。だから兄さんがどこに行ってどうなろうが、多分どうでも良いんだ。
俺は知ってるから。
「遅いぞ総司。何してた」
「すいません、仕事がちょっと切り悪かったもんですから。随分とお待たせしましたお二人さん」
新撰組の局長と副長が一室に揃う中、俺は物怖じせずにその中へ足を踏み入れた。勤務ではないから下ろす刀はありゃしない。
身一つで腰を下ろすと一息吐く間もなく話は始まってしまった。
「二人を呼んだのは他でもない。紅椿の件だ。お前たちは先日の甘味屋の事件でも奴らに近付いていたからな、至極惜しかった」
「惜しくても逃がしたよ」
「まあそう言うな。実質お前たちが一番良い線で紅椿を読んでいるんだ。そこは称賛すべきだろう」
それは俺たちが紅椿に居るからだ、と毎回思うのだけれど。そんなものは口に出すだけ損である。
俺は土方さんの方を見たが、彼は近藤さんの話を聞くのに必死。バカみたいに真摯な眼差しで彼を眺めている。真面目な人だ。
「だがいい加減、俺たちも紅椿を捕らえなければいけない。そこでお前たちに頼みたいことがある」
「何です」
「徳川慶喜殿の所まで行き、近況を報告して欲しい。刀を交えたトシは勿論――総司は慶喜殿が直々に来て欲しいと仰っている」
「俺ですか。へぇ、珍しい。この前の黒犬事件の時に舐めた口ききすぎましたかね、土方さん」
「口に気を付けろ総司」
「すあませんね。で、もしかして近藤さんは行かないんですか?」
「あぁトシと総司をご指名だ。それに頓所を空けられないだろう」
俺と土方さんをご指名た、粋な事をして下さる。紅椿の用件を言われるに決まってるじゃないか。
土方さんはため息をついた。彼にも分かってしまったのだろう。