キミが刀を紅くした
「楽にしなさい二人とも」
本当の荷物がどれか分からなくなる。紅椿か新撰組か。それと同じくらい人の気持ちも理解不能。
解決する事のない無限回廊にただ居るだけの俺は迷路の答えも分からずただ本能で歩くのみ。土方さんはきっと、頭に地図でも作りながら歩いて行くのだろうけど。
「近藤から聞いていると思うが、最近の紅椿はどうだい? 新撰組副長から見た、紅椿の話だよ」
「はい。中々尻尾を掴ませないのは昔からですが最近は噂や手掛かりがある事が多い。このまま行けば紅椿は大きなへまをすると思います。捕らえるのはその時かと」
「それは困ったな」
徳川の旦那はけたけたと笑い出すと、にこりと笑った。いつも状況を楽しんでいる彼は紅椿の窮地も然程の問題じゃないんだろう。
だが不意に笑顔が消えた。
「瀬川村崎が消えたと言う噂がある。新撰組には届いたかな?」
「はい。でもあまり大事にはなってませんよ。それが何か?」
「彼は島原にいるよ。迎えに行ってあげなさい。それと今夜、村崎と共に紅椿の執行をして欲しい」
「瀬川と、ですか」
「そうだよ。半助」
「御意――標的は島原の華岬に住まう華宮太夫。幕府直属の守衛を一文無しに落とし命を絶たせた」
「……島原の華宮太夫だと?」
土方さんは目を見開いた。それもそうだろう。華宮太夫は島原一の女。今日一番の稼ぎ頭。それを殺すとはまた。それに彼女が命を絶たせた事があるわけがない。
彼女は島原から出れない。
「俺の話は以上。下がりなさい」
「――はい」
「失礼しました」
多分土方さんは困ってる。
俺は困らない。命令は命令。
だが腑に落ちない事はある。
「頓所に帰るか」
土方さんは廊下を歩きながらため息混じりにそんな呟きをした。