キミが刀を紅くした

「だが不自由だった。俺が持ってないものを全部持ってた村崎は、俺が持ってた唯一のものを持ってなかった。それを知ってからは哀れみの目で見てやったけどな」



 饒舌になる口は止まらない。

 村崎が死ぬかも知れないと聞いたからだろうか。華宮の言葉を今さらふと、思い出してしまった。



 村崎殿は紅椿を壊す気だ。私が紅椿に殺されるなんて事それ自体を無くす為に。沖田殿にも相談はなさってたけどあの方は、一人でも世の中に対抗するつもりだよ。

 自らの命に変えても。
 彼は最後にそう言った。



「ただ俺の爺ちゃんが死んでから俺は村崎に救われた。あれは俺に生きる道と生き方を教えてくれたんだ。俺に居場所をくれた。俺はあれだけ――悪戯をしたのに」


「悪戯?」



 す、っと襖が開いた。



「家を出た途端に水をかけられたり、飛脚に石ころを送らせたりとまあ、子供らしい悪戯ですよ」



 現れた村崎は何食わぬ顔で吉原に頭を下げた。そして再び吉原を閉め出す為に襖をそっと閉めた。

 腰には刀、
 そして手には椿の花。



「華宮さんに変な事を語るのは止めてくれ大和屋。何なんだ」


「何なんだはお前だろ、人が珍しく鍛冶に打ち込んでいた一週間の間に行方不明になりやがって」


「行方不明?」


「土方が言ってたんだよ。沖田も昨日から行方不明だってな。二人とも最後に見たのが華岬だって聞いたから、俺は来たんだ」


「土方さんは一足先に来てたけどな。だが丑松殿は呼びに来なかったし絹松殿も彼を通さなかった」


「……華宮が口を割らなかったからだろう。草苅に言われたらさすがに割ると思ったんだがな」


「でもお前には会えたな」


「当たり前だろ」


「場所を変えよう大和屋。此処に居たら華宮さんが休めない」



 村崎は華宮に笑いかけた後で窓の方から飛び降りてしまった。



「そうだな。好きに商売しろよ華宮、村崎が見つかったんだから居続けは終わりだ。金はやるがな」


< 229 / 331 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop