キミが刀を紅くした
近藤さんは稽古をしていけ、と言ったのだけれど……これ以上紅椿の件で何か言われたら困るので丁重に遠慮しておいた。
土方さんの所へ行かなければいけないと理由をつけてしまったので、残念ながら休む間もなく彼の所へ行く事になってしまう。
また長い廊下を歩く。隊士はそこら中にいるが、誰一人として自分に課せられた仕事に力を抜く者はいなかった。気も抜かない。
少しくらい気を抜かないと自分が滅びてしまう気がするのだが。そう思うのは俺だけなのか。
「土方さーん」
ノックの変わりに名を呼ぶと返事の変わりに扉が開いた。俺は一応許可を得てから彼の部屋に足を踏み入れる。整頓された綺麗な部屋。何もないとも言うけれど。
土方さんは俺を見るなり開口一番に嫌な言葉を発してきた。
「仕事は?」
「終えてきましたよ。それより何か用事なんですって? 俺を呼んだのはそのためなんでしょう」
「あぁ」
土方さんと俺は向かい合って畳に座った。刀を前に置いた所で俺は欠伸をしてしまう。しまった。
だが丁度彼が後ろを向いていた時で見つからなかった。幸運とはまさにこの事なのかも知れない。
「まさか紅椿の件ですか?」
「近藤さんに聞いたのか」
「えぇまあ。土方さんと一緒に良案を考えて教えてくれって。こう言う場合ってどうするんですか」
「どう? さあ適当に考えてるふりでもしておけば大丈夫だろ」
彼も案外適当である。
「お前を呼んだのは確かに紅椿の事もあるが、本題はこっちだ」
土方さんは京の地図を出した。