キミが刀を紅くした

 そんなこんなで吉原から島原の住人になった俺は絹松に童として雇われた。しかしそれは女たちの世話をする仕事ではなく島原の警護をする自警団首代に属して島原を巡回すると言う仕事だった。

 奇しくもそれは夜帝が吉原でしていた事と同じこと。結局俺は彼の背中を追うような真似をしてしまっていた。しかも島原と吉原の制度はやはり同じもので、女たちは悲しみを飲み込み殺されていき男どもは秘密利に救われ世間に戻っていく世界。子供なんぞに変えられるわけもない。


 しかしそれでも、俺は成長した。餓鬼と呼ばれる年から青年になり、俺を育ててくれた島原の母たちに誘われるほど良い男と呼ばれるようになった。そして、島原を吉原と区別した。俺は誰より強くなり、やり方を変えた。

 自警団を出た俺は島原の番人を名乗り始め、その番人の権限を使って女たちが不利にならないやり方で彼女たちを守った。7日過ぎても女は殺さなかった。俺の稼いだ金を使ってでも生かしてやった。

 俺が島原のに来て十年が過ぎた。そんな頃、夜帝が吉原から文を寄越し俺を島原の公式の番人に指定した。そんな事されなくても俺は認められていたけれど。しかし俺のルールが公式に通用されるようになって、余ほどがない限りは女たちが殺されるようなことはなくなった。


 俺は和歌姉さんを殺した制度を壊した。



 ――。




「丑松、お客さんだよ」



「また新撰組じゃないだろうね? もう何度となく断ってるんだ、島原を新撰組の巡回地に加えたいって話。かき回されるに決まってるし」



「いいや、色男には代わりないけど、土方さんじゃなかったよ。初めてみる顔だ」



「へえ。誰だろう」




 そして、俺は。




「誰だい、俺を呼んだのは?」



「俺だ」



「本当に初めて見る顔だ」



「お前が吉原丑松だな」



「そうだよ」




 俺は本当の修羅に会う。




「回りくどいのは好きじゃないんでさっそく言うが、俺は今強い奴を集めててな。世の中に楯突くために組織を作ろうと思ってる。それに荷担してくれねぇか?」



「なんだ、攘夷のお誘い?」



「いいや、これは御上も――徳川慶喜も容認する反逆組織さ。その気になれば島原だけじゃない。世間でも新撰組でも吉原でも好きに改革できる組織になるぜ。勿論お前次第だがな」



「改革? 吉原でも?」



「あぁ。お前に不利はねぇ、望むなら俺や他の仲間と仕合うのも構わねぇぜ。どうだ」



「――何とも言えない誘いだ」



「まあ考えな。近々返事を寄越してくれりゃあいい。俺はずっとこの鍛冶屋にいるから」




 渡された一枚の紙。
 そして真っ赤な椿。




「組織の名は紅椿。俺は、鍛冶屋の大和屋宗柄だ。良い返事を期待してるぜ吉原」




 俺の運命を変える修羅は煙管を吹かして帰っていった。俺はその紙と椿を握りしめながらふと、和歌姉さんの事を考えた。

 吉原でも、改革できる。




「……紅、椿か」




 生きるのも億劫だった名前もない餓鬼が、いつの間にか奴を倒して女たちを助けたいと思う偽善者になったのは、この瞬間だった。

 俺は密かに微笑んで島原を見上げる。
 その頂点に立つ事を夢見て。



(02:笑顔の裏 終
< 240 / 331 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop