キミが刀を紅くした
死んでる?
そんな事、知るか。
「う、あああああああ!」
雄叫びと共に俺は刀を一端抜いて、両手でそれを振り上げた。思いきり突き刺してやる。今度は腹の中まで手を突っ込む勢いで刺してやる。柄が地面につくまでぐっと!
地獄まで引きずり下ろしてやる!
「やめろ、総司」
俺が刀を降り下ろす前に誰かが俺の腹を思いっきり蹴って、俺を男から引き離した。俺は一瞬息が出来なくなった驚きで、刀を簡単に手放してしまう。その間に近藤さんがその刀を取り上げ、そして土方さんが。
俺の目の前に立った。
見下げられているなんて甘い言葉じゃ現せないぐらいえげつない瞳が俺を捉えていた。土方さんの中の修羅か何かがその瞳を支配して俺を見ているみたいだ。俺は咄嗟に立ち上がり、土方さんと距離を取る。
「仲間が死んだのはこいつのせいじゃない。恨み違いも甚だしい。原因はただ、お前が弱かったからだ。刀を振るならお前の腹に振れ」
「トシ! 何て事を言うんだ!」
「近藤さん、心配しないでくれ。総司は自分の刀をどこかにやったし、唯一持ってた刀も近藤さんが取り上げちまっただろ。だから俺が蹴ってやったんだ。切腹代わりにな」
格好を付けやがって。
「土方さん、何かムカつく」
「お前も何とか思ってるんだろう。自分のせいで人が死んだんだからな。だから強くなれ。そうしたら改めてお前の腹を斬ってやる。俺の愛刀でな。お前のせいで俺の友人が死んだんだ。俺より強くならなきゃ、俺はお前の事を殺してやるぞ、総司」
「何度も言わなくたって分かってますよ、俺の、俺のせいでーーみんな死んだって!」
「ならどうするんだよ」
「死んだ人の分まで働いてみせるーー強くなってやる! アンタより、百万倍!」
俺の言葉を聞きながら京に向けて歩き始めた土方さんは、情けなくぼろぼろと流れ落ちた俺の涙を見ないまま何事もなかったかのように歩を進めた。近藤さんが俺に寄ってきた以外、他のやつらも土方さんに着いていく。
「総司、平気か?」
「大丈夫です」
「行こう」
俺は近藤さんの後を、列の最後尾を何十分か前の土方さんみたいに歩き出す。涙を流しながら俺は自分に言い聞かせるように呟いた。
俺が弱いから人が死んだ。
俺が弱いから人が死んだ。
この先何度もこんな事があるかも知れない。俺はその時どうするのか。俺はーー。
「もう誰にも護られない」
死なない。死なせない。
だから誰より強くなってやる。誰より多くの人を殺してやる。俺が守りたいものを守るため、俺が誰にも護られないために。
「俺はもう負けない!」
がらがら声で叫んだ声はきっと、先頭の土方さんにも聞こえただろう。だが振り返ったのはやはり近藤さんだけだった。俺は彼の隣を歩きながら様々なことを心に誓った。