キミが刀を紅くした
「はは、いや、すいません。土方さんがあんまりにも驚いた顔してるんで何か。ところであの人は?」
女の子を庇う様にしゃがみ込んでいる男の人。のらりくらりと言う言葉がとても似合いそうな色男である。彼は俺を見て笑みを浮かべた。鍛冶屋とは大違いの愛想笑いだ。
俺は刀を鞘にしまって近付いた。
「俺は新撰組の沖田です。初めまして」
「初めまして。俺は島原の吉原丑松だよ」
「吉原の旦那ですね。どうぞよろしく。それで、旦那はこんな所で何をしてるんです?」
「こんな所とは失礼だよ。ここは椿の家なんだから。随分血濡れちゃってるけどね」
「おっと、失礼しました。でも曰く付きにはしてませんよ。みんな生きてるし。それよりそのお姉さんは、椿さんって言うんですか?」
土方さんが俺たちの様子を見ながら隊士に命じて半殺しになっている浪士たちを捕らえ始めた。俺はそれを知りながらも動かない。
姉さんは正座して両手を床に付けると丁寧に頭を下げる。否、馬鹿正直に、か?
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。新撰組の沖田さま、私はこの旅館で女将をしております、中村椿と申します」
「ご丁寧にどうも。中村の姉さん」
「いいえ」
「お話聞いてもいいですか?」
「どうぞ」
「その、椿のお花は何です?」
手拭いで隠すように彼女が持っていた花。俺は中村の姉さんを見た。彼女はそれを隠していた癖に、大っぴらに俺に見せるとまた不思議な笑みで微笑んだ。
だが吉原の旦那は笑っていない。
「ご覧の通り椿のお花です」
「季節外れですね」
「えぇ」
「あれ……その花」
少し血が付いている様に見える。そう追求しようかと思ったら、土方さんが遠くから俺を呼んだ。
「お前ら二人も来てもらうぞ」
土方さんはお二人を知っている様子で事を運ぶと、俺を見て真顔で呟いた。
「悪いがもっと弱いかと思ってた。想像以上の技術だ。今度俺とも手合わせしてくれ」
「ははっ、ご冗談を」
俺は笑い飛ばして先に階段を降りて行った中村の姉さんと吉原の旦那を追った。
「こんな気分良い日に土方さんなんかと手合わせしたくないですよ。俺、負けたくないし」