キミが刀を紅くした

「俺はね、この島原の番人になる為に色んな死を見てきた。今までの夜帝の配下だと女たちが山ほど死んでたんだ。俺はそれが嫌で夜帝に楯突いてた。だけど俺が番人になってそれを防ぐ事が、少しだけ出来てきてる」



 誰かが町で島原は別世界だと言っていた事を思い出した。幕府も島原や吉原には口を出していない。もっと先の未来には関与をしていくのかも知れないけれど、今現状。

 島原の中で女たちが頼れるのは首代とこの吉原丑松だけと言う事だ。俺としてはその中に新撰組が入れば、事件性を少なくすることができると考えているのだけれど。

 事はそう簡単ではない様だ。



「今、新撰組の介入を許可したら夜帝がきっと怒り狂って俺を殺しに来るだろうね」


「なぜ?」


「俺が島原を変えるのに夜帝に何度も殺されかけたから。それを人に投げるって言ってる様なもんでしょ、新撰組に警備を任せるのは」


「なるほど」


「俺だけが死んで島原が永遠に平和になるなら構わないけど、そうはならないでしょ。貴方に任せたって次の代がどうなるか分からない。俺がいない世界で女が泣くのだけは許せないから、新撰組の守りはいらないって言ったんだ」



 吉原の言葉には魂があった。だから俺は少しだけ納得してしまったのかも知れない。その言葉は俺が近藤さんを守りたいと願ったり、彼の思うような世界にしたいと思う雰囲気と至極似ていたのだ。

 自分の事ではない。
 他人の事だからこそ。



「まあ俺が男より女を信頼してしまう性格だからそんな考えになるのかも知れないけど」


「いや。一理ある」


「本当に?」


「新撰組は一部を除けばただの寄せ集めの集団に過ぎない。京に来てから参加した奴らを俺はまだ信用していないからな。いつ裏切りが出るかなんて分かったもんじゃない。だがお前のところはその点、心配ないだろう」


「まあね。うちは島原って言う家族だから」


「それなら断られるのも無理はない」



 俺は立ち上がった。



「だが俺は新撰組の頭と一緒に組織を完璧なものにするつもりだ。その時は島原の警備も許してもらえるようになってるだろう」


「どうか俺が生きてる間に頼むよ。あと、それなりに男前だから貴方、たまに島原にも遊びに来てよ。新撰組云々の話じゃなければ歓迎する。貴方とは気が合いそうだし」


「考えておく」



 俺は息を吐いて手を合わせると、ごちそうさまと呟いた。そして吉原に会釈をして首代の屋敷を出た。

 島原の警備はしばらく置いた方が良さそうだ。今無理矢理切り開いて反感を買うよりはその方が印象が良いと考えたからだ。新撰組が俺一人だけのものなら無理をしていたかも知れないが。新撰組の顔は俺じゃない。


 俺はまた色町を歩いて京へ戻った。

 いつの間にか更けていた夜。島原と違って静かな町。俺はゆっくりと足を進めた。島原からは少し離れた場所にある甘味屋。そこから細道に入った裏道に鍛冶屋があると聞いていた。

 時間も遅い。閉まっていたらまた日を改めよう。そう思っていたが、ふと。


 中から怒鳴り声が聞こえた。



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