キミが刀を紅くした
俺は鍛冶屋の戸を開けた。それと同時に誰かが鍛冶屋を出て行った。その細身の人と肩をぶつからせたが、暗くて顔がよく見えない。
「あ、すいません」
「おい待て!」
中から誰かが現れた。中の人から逃げるように細身の男は走り去って行く。何か事件だろうかと考えたが、中の男がため息を吐いて見送っていたので放っておいた。
眉間にシワを寄せたままで、男が俺を見た。
「あんたは?」
「新撰組の土方歳三だ。鍛冶屋の主人に話があって来たんだがーー改めた方が良いか?」
「いや。入れよ。丁度閉めるところだ」
鍛冶屋の主人は薄暗いその家に俺を招いた。俺は煤と煙臭い家に足を踏み入れ、辺りを見渡す。作業場の右端に生活の感じが出ている。ここは彼の仕事場で家なのだろう。
「鍛冶屋か」
「何だ今更。知って入ったんじゃねぇのか」
「いや、話は聞いていたが。大和屋ってのは弥吾か? それともお前の名前か?」
「名だよ。俺は大和屋宗柄ってんでね」
「そうか」
「座る所はねぇが、そこら辺に腰掛けな。何か話があって来たんだろーーどうせ沖田の事だろうけどな」
俺はふと思い出して煙管を取り出した。大和屋は目を細めてそれを見ると手を出す。
「それは俺のだ」
「やはりそうか」
俺がそれを返すと大和屋は懐かしそうに眺めてから火を入れた。ふわりと煙が宙を舞って、知らぬ間に大和屋を包み始める。
「総司に頼んで打ってもらった刀、中々調子が良い。たが代金が要らないってのはどいいう事なんだ」
「調子が良いのに文句つけに来た奴は初めてだ」
大和屋は適当に笑う。
「ちょっと前に受け持ってた刀の音が聞きたくた斬りかかっちまったんだ。丁度入ってきたのがお宅の沖田でな。代金はその詫びだから気にしなくていい」
「そうか。なら好意として受け取らせてもらう」
「あぁ、そうしてくれ。それで? まさか話ってそれだけじゃねぇよな。鬼の副長さん」
鬼か。そういえば吉原にもそんな事を言われた気がする。世間では俺がそう呼ばれているのだとか。いつから俺は鬼になったのか。
「総司が最近、毎日ここに邪魔しているらしいから。挨拶も兼ねてな。たいした話じゃない」
「ふうん。そう言いながらきょろきょろと人ん家見渡して、ただの刀鍛冶って事を調べに来たんだろ」
嫌味ではなく彼はそう言った。
少しだけ図星のところがあった。甘味屋で手土産の一つでも買っていればそんな事を言われなかったかもしれないな、と後悔する。
「それで、お前の見定めは?」
「さあ、ただの鍛冶屋には見えるが」
「そう見えない時もあるってか」
けらけらと他人事の様に笑って、奴は刀を鞘から抜いた。黒く光る刃。妖しく血を吸いたがっている様にそれは輝いていた。あんな刀を俺は見たことがない。
「ご名答だ」
「え?」
「俺はただの鍛冶屋じゃねぇよ」