キミが刀を紅くした
「……なら、何だ」
何となく雰囲気が悪い。
俺は座ったままで腰に下げた刀に手をかけた。大和屋の目が妖しく笑う。その黒目が俺を捉えた時、大和屋が口を開いた。
「俺は世荒しの友人だからな」
「は?」
「最近、小競り合いがあった中に現れて全員倒していくって言う珍事件が起きてたろ。あれやってるのが俺の友人なんだよ」
「お前も荷担しているのか?」
「してないね。て言うか、さっき出てったろ。あいつが世荒しの正体だ。お前ら捕まえそうだから名前は言ってやんねぇけどな」
「そりゃ、事を起こすのならしょっぴくのも一つだが。お前が何もしてないならやっぱりお前はただの鍛冶屋じゃないか」
「まあ、そう、言われたら、なあ」
呆気にとられている大和屋を見ながら、俺はふと思った。頭が回るのか回らないのか分からない。第一、名前を言わなかったからと言って個人を特定できない訳じゃない。
子供がやるような友人自慢を聞かされた気分になって、俺は刀から手を外した。
「まあお前が何者でもどうでもいいが。総司は毎日ここに来て何してるんだ?」
「そんなもん沖田に聞けよ」
「俺には言うなと言われたか」
「そこまで勘づいてて探りに来るって事は、詰まるところも何となく分かってんだろ」
「分かってたらわざわざ来ない」
「ふうん。って事は実質それを探りに来たって事か。煙管一つでそんなに話が進むとは思ってなかったがーーいい兆候だな」
「何だ」
「別に。あぁ、俺は口止めされたから言わないが、あと十分ぐらい待っててみろ。お前が知りたいことが多分、分かるぜ。まあ、俺を斬り殺したくなるかも知れないがな」
大和屋はそう言ってからやっと黒い刃の刀を鞘に納めた。含みのある言い方をする奴だと思いながらも俺はその十分を待つことにした。俺が腰をあげないのを見ても大和屋はなにも言わない。
五分が過ぎ、十分が過ぎた。
腕を組んで座っていたら眠ってしまいそうな家の中、がたがたと騒がしく誰かが入って来た。血にまみれた、その人は。