キミが刀を紅くした
翌日。総司は知らぬ間に帰って来たらしい。だが会う間もなく俺は京の街からしばらく離れた場所に現れた世荒しの一件に呼ばれてしまった。
今回のはいつもの小競り合いとは少し違い、攘夷派と尊皇派のぶつかりだった。新撰組としては攘夷を許すわけにはいかないので尊皇派としての参戦になるわけなのだが。
「あいつ……相当な手練れだな」
遠目から見ても世荒しの一人勝ち。それがこの競り合いの印象だった。新撰組の隊を率いている今回は慎重に事を進めて行かなければならないのだが、少し引っ掛かる。
一人勝ちなのは変わらない。だが攘夷派も尊皇派も世荒しの存在を目に頭に入れてしまっているのだ。つまり俺の経験から考えるともうすぐ双方による世荒し排除が行われるだろう。いわゆる邪魔者への一斉攻撃だ。
「あぁ、いた。よかった」
遠くで待機していた俺の所に総司が走って来た。暗殺組織の一件以来だったので、俺は少しだけ身構えてしまったが、総司はそんな雰囲気はなく、いつも通りだった。
「近藤さんから伝言を預かってます。まあこんな時に俺の口から言うのはかなり気が引けるんですけどね。頼まれたのは伝えますが」
「何だ、さっさと言え」
「土方さんにお見合いの話が」
「はあ?」
「そんな顔しないで下さいよ。お相手は幕府関係のたいそう美人な方らしいですよ」
「なんでそれを今」
「そりゃ近藤さんに聞いて下さい。大方伝え忘れてたとかそんなだと思いますけど。あぁ、それから土方さん」
総司が声を潜めた。
「例の件、新撰組に内密にして下さってありがとうございます」
「ーー暗殺か」
「土方さんの言葉に便乗する訳じゃないですけど、俺だって新撰組に迷惑をかけたくて足突っ込んだんじゃありませんから。まあ不純な動機ではありますけど、俺」
強くなりたいんです。
総司はそんな事を言った。途端、俺の頭には京に来る時に襲われた事を思い出す。夢半ばで何人かの仲間が死んだこと。あの時俺が総司に言った台詞も全て詳細に思い出す。
もう誰にも守られたくないんで。
総司は更に呟いた。その言葉で俺は確信する。こいつをこんな風にしたのは多分、俺なのだと。あの時まだ幼いーーとは言っても立派な武士だった総司に俺は追い討ちをかけたのだ。自分の不甲斐なさを棚に上げて。
「総司」
「まあ話はそれだけなんで。俺は先帰りますね。小言は帰って来てからにして下さい」
静かに笑って去っていく総司を見ながら俺は少しばかり罪悪感にかられた。暗殺なんて事をさせているのは俺なのか。なら止める権利もないのではないだろうか。俺が口を出したらきっと、総司はまた考えるだろう。
近藤さんぐらい真っ直ぐだったらいいのに。総司は少し俺に似てひねくれているから。
「土方さん、世荒しが!」
ふと目を離した隙に事は展開を見せていた。俺は崩れ行く世荒しを見ながら、無意識に刀を抜いて陣営に突っ込んでいた。