キミが刀を紅くした
隊は準備を済ませて隊長の命令を待っていた。俺は辺りの様子を静かに伺う。陽は、もう落ちた。
今か今かと待っていた夜がやって来たのだ。俺が刀を抜くと、隊士が続いて静かに抜刀する。
「行きますか」
さて始まりである。俺はもう一度陽が落ちたのを確認して、動き出した。正面の浪士は通り過ぎる際に幾度か斬りつけてやった。
椿姉さんに場所を聞けなかったのは残念だったな。偶然、どこかに居てくれれば良いんだけど。
花簪の扉を開けて新撰組の名を名乗ると、客は慌てて逃げ出して行く。入り口付近に立っていた椿姉さんは俺をじっと見ていた。
あぁ、何て偶然。
「半分は二階へ、半分は一階を隈なく探して下さい! 始末出来る奴はさっさと始末しても良いって土方さんも言ってたんで!」
俺の声に隊士が動いた。
「総司さん、此方へ」
椿姉さんが俺を導く。さすが、とは言ってられないので俺は無言で彼女について歩いた。
旅館には似合わない声が響く。
椿姉さんは俺を厨房へ案内した後、二階への階段を指した。あんなところにも階段があったなんて知らなかった。これは盲点だ。
きっと、浪士達にとっても。
「貴方が探している浪士さん方の近道です。梅の間に居ますよ」
「ありがとうございます」
「それと、これを」
彼女は椿の花を俺に渡した。真紅の椿である。これはこれは、まあ。俺はどれだけ働けば良いんだろうか。今日は非番なのになあ。
「二階、菊の間にいる西崎暁殿です。彼は一人で居るはずですよ」
「分かりました。色々どうもすいませんね椿姉さん。助かります」
彼女は笑った。