キミが刀を紅くした

 俺は厨房から二階へ続く階段を駆け上がる。それは椿の間に繋がるものであった。俺はその部屋から外に出て走り続ける。

 椿、藤、桜、梅の間を通り越して菊の間へ向かった俺は、刀の柄を握りなおして襖を開けた。隊士たちはまだ二階にも到達していないらしい。遅いなあ。



「な、何事ですか」


「この旅館に不貞浪士がいるとの情報を受けましてね。調べさせていただきたいのですが」


「だから騒がしかったんですね。どうぞ、この部屋には私がずっと居たので浪士はいませんが」



 俺は刀を持ったまま西崎に近づく。部屋を散策するふりをして彼の背後に回りこむ。簡単だ。俺は新撰組の誠を背負っているのだから、疑われる余地もないのだ。



「いないらしいですねぇ」


「はあ、ですから私がずっと居ましたから入る余地は……うぐっ」


「そりゃ、そうですよ。浪士が居るのは梅の間ですからねぇ。ご協力どうもありがとうございます」



 背後から心臓を狙うのは簡単である。慣れれば確認せずに一突きすることが出来るようになった。

 俺は刀を素早く抜いてから椿の花を彼の上に散らせた。どたどたと騒がしく階段が鳴る。そろそろ隊士たちが来そうだ。



「さて、西崎暁はやったし……後は浪士をなんとかしなきゃなあ」



 窓を開けて隣の部屋へ移る。俺はそのまま梅の間へ入り込み、浪士を相手に斬りかかった。


 一人目を斬った後で、隊士たちが入ってくる。俺は彼らと一緒に浪士を討っていった。誰の血を浴びたかなんて最早分からない。



「沖田さん、どうやら数人逃げた浪士がいるみたいです。頭もその中に入ってたかもしれません」


「あぁ、まあ……二番隊が裏で待機してるって聞いてますから。大丈夫でしょう。俺たちは頃合を見て引き上げる事にしましょうか」


「分かりました」


「一応、旅館の全部屋を確認してから客と従業員の安全を確保して下さい。帰るのはその後でね」


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