キミが刀を紅くした
全ての作業が終わって、隊士全員が頓所に戻ったのは深夜を少しだけ過ぎた頃。俺は朝によく寝たから残って報告をしていた。
「一階は廊下に十一人、二階の廊下、梅の間には合わせて十五人の浪士がいました」
「それで」
「外は二番隊から聞きましたか」
「あぁ。報告は中だけで良い」
「分かりました。中の浪士は生死問わず二十六人検挙しました」
「外と合わせて三十か。それなりの数だ。情報があってよかった」
「それと……菊の間に一人、一般人が死亡していました。名前は西崎暁。昔に将軍のお付をしていたらしい人です。部屋には椿が」
「――椿?」
土方さんは俺を見た。何も言わなくてもきっと分かっている。だから彼はため息と共に「また紅椿だな」と呟くだけで終わった。
俺はその言葉に頷いて立ち上がる。あれだけ眠ったはずなのに、まだ欠伸が出てきやがった。
「以上で報告は終わりです」
「そうか。ご苦労」
「はい。じゃあお先に」
「あぁ、総司」
「何ですか? 報告書は勘弁して下さいよ。せめて明日に」
「いや。お前が夕刻に助けたって女が土産を置いていったらしい」
「土産?」
「明日にも食え。饅頭か何かだ」
「――分かりました」
人斬りに贈り物なんて、笑える話である。俺は土方さんの部屋を出てから頓所の庭に咲いている椿の花をしばらく眺めた。
人を斬るのは嫌いじゃない。それよりも弱いまま何も出来ないのが嫌いだ。それなら人を斬って土方さんより大和屋の旦那より吉原の旦那より誰より強くなりたい。
俺は自分を人斬りとして自覚している。まだ救いようのある悪人だと思う。だから俺は救えない悪人を斬るのだ。紅椿ではない。
それは、誠を背負って。
(00:沖田総司 終)