キミが刀を紅くした
「その、さっきから言ってる策って?」
「聞いてないか。紅椿を壊すらしい。瀬川が同志を集めて回ってやがるから、今夜にでもお前の所に来るんじゃないか?」
「……壊す?」
あの紅椿をか。
どうして俺の所には話が来てないんだろう。トシも総司も知っているのなら椿もきっと知っていると思うのだけれど。どうして。焦りばかりが俺の脳裏を駆け巡る。あせる必要なんてないのに、どうしてか、知れない。
「詳しい事はまだ聞いてねぇ。賛同した奴にだけ話してるんだろうがな、俺はまだ――とにかく、そう言う話が出てるんだ。お前の話を呑むなら、総司はそれに賛同したって事だな」
「総司は新撰組を壊す気?」
「紅椿だ」
「だけど、紅椿として紅椿を壊すんでしょ。新撰組としてじゃない。紅椿が壊れてもその後の世界はただの罪人としての人生だ」
「だが」
「トシはいいの? 総司を止めるならトシしかいないんじゃないの? どうして力ずくでも引っ張り帰って来ないのさ」
トシは首を振った。
「俺は総司を縛る枷じゃない」
「トシは、参加しないの?」
「俺は、しない。総司一人よりも新撰組を守らなければいけない。例えあいつを、斬る事になろうとな。瀬川には追々伝えるつもりだが、お前、会う予定があるなら伝えてくれ」
「どうして」
「なんだ」
俺は立ち上がってトシを見下ろした。
なぜそんな事が言えるのだ。トシは多くの死を見すぎたんじゃないのか。どうして総司を殺すなんてこと。俺には分からない。だがトシの目はやはり真摯だった。辛いぐらい。
俺は首を振った。
「俺はトシがどうしてそんなに冷静なのか分からない。悪いけど俺はそこまで大人になれないよ」
「吉原」
「ごめん。話は総司の事だけだから」
「おい、お前瀬川に会いに行け」
「どうして?」
「どうしてもだ。行け」
俺はトシの言葉には返事をせずに新撰組を出た。町をふらふら歩いてみる。頭をぐるぐる回るのはトシの言葉と不信感ばかり。
どうしてその策は俺に伝えられてないのだろう。宗柄は俺を早々に切ったのだろうか。もしくは村崎殿が俺を要らないと言った?
なぜ、なぜ。どうして。
「丑松さん」
俺は一人になって島原を守り続ける事なんて出来るんだろうか。切り捨てられた後はどうしたらいいんだろうか。俺は。
「待ってください」
「え?」
「お急ぎでなければお話があるんですが」
「椿、じゃないか」
「はい」
「どうしたの?」
「こちらへ」
椿はそう言って小さな体で俺の腕を引っ張っていった。着いた場所は花簪の椿の間だった。そしてそこにいたのは大和屋一人。俺が部屋に入ると、椿は戸の前に立ち塞がる。
話を聞かなければ帰れないらしい。