キミが刀を紅くした

 総司は俺に続いて腰を下ろす。家主が居ないのだけが不思議だ。俺はなんとなく借りてきた猫のようにきょろきょろと辺りを見渡す。きちんと整理されていて埃一つない。とても今から世の中を荒そうとしている男の家には見えない。

 否、彼は昔から世荒らしか。



「瀬川の兄さんは夕刻には帰ってきますから。用があるならそれまで待って下さい」


「あ、うん」


「紅椿の件はもう聞いたんですよね?」


「さっき椿に捕まってね」


「そうですか」


「そう。そこで宗柄に色々嫌な事を頼まれちゃったんで――俺は総司や椿みたいに着いては行けないけど」


「つまり壊す側には行かないんですね」


「そう言う事」


「大和屋の旦那に何を頼まれたんです?」



 言うべきか言わないべきか。だが総司には納得させると大和屋は言っていたから結局は知る事になるんだろう。俺は口を開いた。



「自分を殺してくれ、そう言われた」


「大和屋の旦那を? なんでそんなこと」


「宗柄は紅椿を全部背負って死ぬ気らしいんだ。俺はその殺し役を、トシはその捕まえ役を担ってる。結局全部宗柄が片付けるんだ」


「止めないんですか」


「止めるよ。だから俺は村崎殿に賭けてる」


「どういう事です?」


「総司も宗柄を助けたい?」


「勿論です。あの人は死ぬには惜しい。それぐらいなら俺が代わりになりたいぐらいですよ」


「ならよかった」



 俺は総司の目をじっと見た。総司もそれから逸らさない。その瞳の中に映る彼の決意を見た時、俺はゆっくりと息を吐いた。

 俺は宗柄を言葉で裏切る事が出来なかった。行動で裏切ったら多分、宗柄は自害でも何でもするだろう。大和屋宗柄は自分の道の障害はさっさと取り除いてしまう人だから。だから俺はこうして分からない様に種を蒔く。



「総司」


「はい」


「村崎殿の言う事をよく聞くんだ」


「瀬川の兄さん?」


「彼は簡単には死なないから大丈夫でしょ? 宗柄よりも村崎殿に任せた方がいい」


「瀬川の兄さんも大概無茶しますけどね。吉原の旦那が賭けたんなら俺もそうします。旦那は運が良いですからね」



 総司は言って笑った。


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